第6話 閑話 二人の過去
ーなぜ、私が魔王なのだろう
覇者たる王族に生まれ偉大なる父上の血脈でありそれゆえに強大な魔力を私は秘めていた
だが、ただそれだけだ。私には図抜けた才覚も王たる器量も絶対的な力というものがない。
勉学は主席級の魔族を雇い教育を受け様々な魔法を習い魔王の代名詞である爆殺魔法ヴェリグリューシュを会得した。
それ以外にも多種多様な青みず赤ほむら黄かみなり緑かいふく樹みどり白はじゃ黒あんこくなどのすべての魔法すら会得できた。
だがそれも器用貧乏。ヴァブリーシュ以外の魔法は凡庸クラスで秀でた力を有していない。
それでも父上と母上は私を認めてくれた。
これほど多彩な魔法を扱えた魔王は例を見ないと。
だがそれは嘘だ。
総ての魔法を束ね私以上の魔法力を持つ魔族は数多にわたる。
それが魔の者が最強と呼ばれる所以。
だからこそ血筋という襲名ではなく天賦の才を持ち上に立つにふさわしい者が私以外にもいる。旧弊にとらわれず実力者こそ王座に座るべきだと父上に申し立てた。だが
「それはならぬ。魔王は才覚ではない。魔王とは歴史と権力だ。ただの力ではなく古より受け継がれた歴代の血筋にこそ羨望と畏敬が刻まれ連綿と紡いできたからこそ民草の尊敬を勝ち取ってきた。それを損なうことは出来ぬのだリュミアよ」
「・・・・・・・・・・」
もっともだと私は思った。だから黙した。でもそれでも、私は魔王にふさわしくない。
本当は貴族の舞踏会よりも城下町の子たちと遊びたい。旅がしたい。もっと外のことが知りたい。
でもそれを口に出すことは、父母上いちぞくを裏切る行為に他ならない。
期待を裏切り信頼さえ裏切ってしまう。だから言えない。だからずっと耐えてきたしそれこそ私の幸せだと思ったから。
そう生まれたからどうしようもない。それが運命…そう言い聞かせていた。
ずっと、ずっと。でも、裏切らないように努めていたけど、そうせざるを得ないただひとつ私が流浪に出た理由があった。
ある日のこと。卒業試験と称し父上自ら携わり私に剣を渡した。
最初はよくわからなかった。
剣なんて使ったことはなく必要がないと思って今までそんなことを習っていなかったから。
訓練場の前の大扉が開いてそこからからからと荷車の車輪の音がする。
そして荷台を乱暴に兵士は倒し固い石畳の上に叩きつけられていたのは人間の男だった
ーわからない。なんでこの人は傷だらけで手足を結ばれて地面につくばっているの?混乱していた。一体何が起こっているのかこれから何をするのか全く理解できなかった。理解したくなかった。思考が拒絶する。
手には剣、向かい合うは抵抗できない男。もう答えは出ているのにわからない
そして知りたくない一言を父上は言った
「娘よ、そやつを殺せ」
「・・・・・え?」
震える剣を持つ右手。同じく恐怖で震えあがっている男。相対し互いに瞳を交わす
心底、彼はおびえていた。死にたくない、助けてくれ。必死に懇願を訴えている眼
「…父上、彼の罪状は?」
「その人間は、奴隷の身分でありながら職務を果たせなかった。畜生が主人に従順でなかった。死罪に値する」
・・・何を言っているのだろう父上は、それは死罪に値するわけがない。人間はか弱い。ゆえに仕事のミスくらい許容すべきであろう。
前方には何かを訴えている奴隷の人間。だが轡で口が閉じられていて言語を介すことができないので言葉は伝わらない。いや、そもそも
「奴隷…?父上、そのような制度は魔界にはなかったはずでは」
頑強な肉体を持つ魔族。それゆえに働き手に困ることはなく人間の奴隷など必要はないはずだが。
まず、魔界に人間を招くということが禁忌だと私は知っている。清き魔界に不純物は必要ないと先代魔王の法が順守されていた。
だのに制定するなど。不服を込めた一瞥を父上に投げかける。
「なんだ?奴隷制度が魔界に必要ないと?覚えておくといい娘よ。だれしも正しさだけでは生きてゆけぬ。享楽なしに発展は不可能なのだよ」
・・・失望と幻滅。何でそんなことを…?ひどいと。思い、握る剣、その矛先は奴隷に向ける。わけはなく
「ヴェリグリューシュ!!!」
「な!?」
奴隷以外の周囲に爆撃魔法を放ち牽制。無論無詠唱なので威力は半減以下。
殺すことが目的ではない。殺すならばこいつらと同じになってしまう。
砂煙の中彼の拘束具を外し逃げるように促しその間背後から放たれる魔法を障壁で身を守り私はこの場から逃走した。
次期魔王の予定であるが現時点では魔王ではない。
翻意を起こしたからには厳罰が下されるだろう。それは恐れていない。
こんなただれた魔界など私が破壊してやる。
──────背後を振り返ると父上の姿が見えた。物悲しそうに私を見る父上。少し心が痛んだ。でも
「私は、魔王に何てならない。腐食腐敗に満ちたこの魔族を私は許すことはできない…!!」
そう宣言し人間界へのゲートへ向かう。父上の制止の声が聞こえた。でももう私はあなたを父と認めるわけにはいかない。制止を振り切りゲートに飛び込む。
そして人間界に降り立った時私は誓った。私はリュミア。流浪の魔法使いであると。
「つ…」
少し、昔の夢を見ていた
私が魔王にならない選択をしたあの日を
あまり良い夢ではない為に少しの頭痛とめまいが起きるとともに襲われる
だが大したことではない。あの選択に後悔はない。そしてこれからも…否定し続ける
郷愁がないといえばウソになるが…それをかき消すかのように彼は現れた
最初の出会いはひどいものだった。本当に。警戒心で張りつめていた為に申し訳ないことをしてしまった
そして彼を見た時、自分と同じ一人だとわかった。だから私はともに旅がしてみたいと思ってしまった
常に近衛が追っている最中だというのに我ながら阿呆なことを考えたものだ。そこに疑問が生じなかったのは多分、私も一人が心細かったから
話をしているうちに親近感も芽生え危なっかしいほどお人よしだという事も分かり私が付いてやらねばという使命感もあって一緒に旅をしている
・・・でも、不安もあった。私たちの旅はどこに向かっているのだろう。その旅の終わりは別れであることも知っている。そして、私はシノと別れた時、また独りぼっちになることが怖かった。
読み終われば本を閉じるように楽しいことも嬉しいこともいつかは終わりを迎える
なら私は、本を閉じず顔に覆い眠るだけ。楽しいことをただ先延ばしにしているだけの白昼夢をただいつまでも見ていたいと、愚かにも願ってしまった…
夢を見ていた。
昔の夢。富豪の家系に生まれ一人で生きていた過去を
兄が三人いて末っ子の俺は別段仲が良かったわけでも嫌い合っていたわけでもない
家族仲も普通で険悪ではなく何不自由なく生きて衣食住娯楽もなに不足なく生活していた。
といっても生を活かすと書いて生活と呼ぶのならば多分これは生活とは言えなかったが
単純に、生きた心地がしなかった。自分という存在に必要性を感じなかった
末っ子だからだろう。兄たちの頼もしさが逆に俺の劣等感を刺激した
跡継ぎを決めるなら無論兄たちであり自分は含まれないだろうとわかっていたのだ
兄たちほどの才覚はない。いたって平凡、だからこの家では不自然なのだ
金持ちと学校で疎まれた。友達と呼べる存在は金目的だった。だから少し人が怖くなった
普通の家庭に生まれていればと思う時もある。それならば少し胸を張って生きて行けただろう
さっきも言ったが別段家族仲が悪いわけでもない。逆に言えば愛情もさしたるものではない。放任主義で忙しい身だったから身の回りの世話は使用人任せだった。だから愛情というものがあまり伝わらなかった気がする。仕方がないことだと頭ではわかっていても心が素直に受け入れられなかった
学校や交友関係の険悪さ、自身への劣等感に家族愛がわからなかったこともあり。
時折、家族の視線が怖くなっただけ。
『何で生まれてきたの?』 『自分たちだけでいいのに』 『一人増えるだけで疲れる』 『いる意味ある?』 『正直いらない』 『というかいてもいなくても同じ』 『ならいなくなれ』
なぜかそんな声が頭の中に聞こえていたのだ。無論そんなことを思っていないのは分かっているが…
月日が経つにつれ成長していくごとに、大人になっていくたびに家族の視線が不安になってきたのだ。
必要とされない。何の役にも立たない。それほど怖いことがあるだろうか?
誰の役にも立てず何にも秀でるものがない。つまりそれは生きているだけで邪魔という事に他ならない。
東雲家の名に恥じない存在になれ。そう教え込まれたから俺は『役に立たないなら屑』と認識してしまった
生きてていいという才能が全く俺にはない。だからこもった。部屋にこもり一人で生きていた。家族の視線を避けるよう自分が生きていてはいけないという現実から目を背けるように
使用人たちは心配していたが『そういう仕事だろう』と俺はそこまでに卑屈になっていた。
それまでは別に大したことはない。生きることに理由なんていらない。そう思っていた、そう思い込んでいた。両親が事故で亡くなるあの時までは…
旅客機の事故。海外の知己とのパーティーに呼ばれた際その飛行機に爆弾が積み込まれ爆発し墜落。生存者はなく俺の両親の含め原型をとどめておらずニュースでは無差別テロだといわれた。
遺体の肉と骨があまり残っていなかったために遺灰は片手にも満たず葬式で両親の顔を見ることもまたなかった。
それから悲しみに暮れる。という事はなく遺産相続や跡継ぎの有無で諍いになった。親戚たちがこぞって権利を主張し兄たちもまた金に目がくらんでいた。兄たちも俺と同じく両親への愛情を感じていなかったのだろう。別段涙を流すことなくそれよりも我先に東雲家の莫大な資産と権威を求めていた。
『俺が跡継ぎにふさわしい。その為に努力してきたんだ』『でもお前俺より劣っているだろう』 『晩節を穢すな。俺が一番ふさわしい』
そんな兄弟たちの声が聞こえさらに自閉は悪化した。醜い争い、俺は金や権利に興味がなくむしろそれを見て嫌気がさしてきた。
だがそれよりも俺は薄情にも肉親の死を悼むよりも真っ先に
『誰も俺に見向きもしない』という現実が付きつけられたのを肌で感じてしまった
だから家を出た。本当に自分がいらない人間だとわかってしまったから。被害妄想でもなんでもなく厳然たる事実だと知ってしまったから
俺の世話係が出ていく際に生活費の仕送りを約束してくれた。一時の同情なんかいらないとその時つっぱねたが今でも口座に振り込んでくれるから本当に心配してくれたのだろう。
申し訳ないことをしたと今でも後悔している。会えるなら謝りたいがあの家にもう帰りたくはない…。もうあの場所に俺のいる余地はないとわかっていたから。
だから、俺は俺に必要性を求めリノをプログラミングした。自分を見てくれる存在が欲しい。その一心でリノを作ったのだ
我ながら情けないと思ってはいるがこれ以外に方法が見つからない。そしてリノが生まれてから俺の生活は生活と呼べるようになった。
俺はここにいていい。俺は生きていていい。どんな理由でもいい。だから俺を殺さないで────!!
だからリノがいないと俺はもう立ち直れない。だからリノの為ならば何を差し出したって良い。
耳心地のよいことをのたまっているが要するに俺はリノを利用する道具としか見ていない。
本当に最低な奴だ。本当に一番醜いのは俺自身だと知っている。それを認めたら俺が俺自身を見捨ててしまうから見ないふり。本当に何のために生まれてきたのかもう考えないでいた
そして夢の回想が終わり異世界での出来事がテロップのように流れてくる
草の怪物 綺麗な竜の子ニュート そしてリュミアとの出会い 歌 呪文 能力
俺はまだ役立てていないけど、いつか胸を張って生きれる時がくればいいな
そんな、つまらない男の物語
そして夢から目が覚める…
起きた時すでにリュミアは部屋を出ていた。まあ昨日があれだったから顔を合わせづらいのだろう。
かくゆう俺もそうだ。リュミアの裸を見てからリュミアの服を見るたびに下はこうなっているのかといういかがわしい妄想が先走ってしまう
目が覚ますために顔を洗おうと洗顔用の桶を探す。そしてふと目をこすると気が付いた
「あれ…泣いてた?俺…?」
雫がまだ瞳に残っていた。どうやら悲しくて怖い夢でも見ていたらしい。覚えてはいないが
まあそれはどうだっていい。しょせん夢だし。それよりも俺は
頬を叩いて意識を覚醒させ
「待ってろよリノ。今日も頑張るからな」
必ず帰るという誓いを立て一日を頑張る宣誓をした。
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