第9話 いよいよ明日より、岡山での仕事が待っている。
三番街と呼ばれる地下街を通り抜け、有賀社長と岡山清美氏は駅前の下川書房へと向かった。郵便局やレストランの横を通って岡山鉄道管理局前を通り抜けてすぐの場所に、目的地の本屋「下川書房」はある。
「夜分にごめん下さい。有賀です。只今、清美さんをお連れしました」
男性の声を聞きつけ、家人が出てきた。この書店の店主夫妻である。
「こんばんは。お世話になります。岡山清美です。どうぞよろしくお願いいたします」
前回送り出されたとき同様、店主夫人がいつもの声で出迎えてくれた。
「清美ちゃん、よく来てくれました。今年も、よろしくお願いしますね」
同行してくれた有賀氏に挨拶した後、清美氏は勝手知った恩人宅に迎え入れられた。明日からいよいよ、高校時代とほぼ同じ業務内容の仕事が待っている。この時期は確定申告の手伝いだけでなく、実は、定時制高校や大学に通うウエイトレスの試験対策のために時間をとってやるべく、彼女を接客要員としても依頼しているのだ。
もっとも今度は、父の経営する岡山洋行株式会社からの「派遣社員」として、派遣先の企業での仕事である。もう彼女は成人しており、修行中の身ではない。
実は、岡山洋行株式会社の岡山支店を出すための調査も、彼女はかねて依頼されており、合間を見て不動産屋巡りと現在の顧客先への営業も、父親の会社より任されているのである。
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約1カ月弱の出張を終えて大阪に戻るにあたって清美氏が乗車したのは、宇野発東京行の電車特急「第二富士」号の二等車であった。
これは宇野駅で四国連絡の客を乗せた後、昼過ぎに岡山で山陽本線に入って約2時間弱で大阪に達し、その後夕方すでに暗くなる東京まで足を延ばす列車である。
彼女はこの後、「へいわ」号に乗車したことはない。今回の乗車が、最初にして最後であった。
なお、同行した有賀社長については、広島及び岡山県内から大阪への日帰り出張に便利な列車であったこともあり、日帰りと泊りがけとを問わず、下りにも上りにも、その前後に何度か乗ったことがあるという。
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