第3話 女の感触

 振り向きざま、乳房が堂々惜しみなく、重そうに揺れた。ぶるん。その揺れには判断力を阻害する深い余韻があった。彼女は恥じらう様子はみせない。黒のひし形マイクロ・ビキニが、綺麗に乳首と乳輪を覆っている。あ、よく見たら、マイクロ・ビキニは鎧素材である。


 鎖骨の下からつくられた坂は、二つの柔らかな果実となって、ゆるく大きな円を描いている。つまり、爆乳である。


 彼女は腰に差された剣の鞘から手を離した。そうしてあきれたような、拍子抜けたような調子で「なんだ、ゴブリンのがきじゃないか」と言った。


 確か名前は、アリナだった。あの動かないはずの絵が、立体となって僕に正面向いている。質量がある。白い肌は艶帯びて、みずみずしい。

 パンツは真っ赤で、これもビキニである。まさしく、男にとってどんな武器より破壊的である。


 青い瞳がやれやれと言いたげに、まぶたにちょっと隠されている。長い睫毛、細めの眉、高い鼻、桃に染まった唇。鎖骨、おっぱい、おへそ。それらが僕の目の前の女を彩って、美しさとなって、脳みそを馬鹿にする。


 僕は、どうするべきなのだろうか。逃げるか。何か言うべきか。


「どうして」彼女は組んでいた片方の腕を解いて、その手のひらを握ったり、ひらいたりした。「アタシをつけたんだい? 返答によっては痛い目みてもらうけれど」

 何か言わなければ。「で、弟子にしてもらいと……その、思って」

「弟子だって?」

「は、はい」


 彼女はもう一度腕を組んで、ずんずんこちらに歩み寄って来た。上半身がすこし前に傾いて、組まれた腕に乗る栄養たっぷりそうな胸が強調された。人差し指でつんっとふくらみの片方押したら、どんな反応するだろう。ぶん殴られて、斬られて殺されるかな。


「ふむ、弟子か」じろじろ観察される。とても恥ずかしく、しかし良い気分である。なんだかちょっと、宙に浮いたみたい。


「良いだろう」数歩、彼女は僕から距離取って、どうしてか剣の鞘に手を当てた。

「え?」と僕は言った。まさかね。

「え? とはなんだ!」

 剣は引き抜かれた勢いそのまま、空気を斜めに斬り裂いた。わずかにでも僕が前に居たら、僕の鼻は斬り飛ばされていた。空気圧と、剣の一振りに驚いて、しりもちついてしまう。


 すると、どこからか分からないけど、アップテンポの音楽が流れ始めた。ゲームやアニメの戦闘bgmのような。周囲を見渡すが、スピーカーを持った若者は見当たらない。目の前の女性も、特に反応なし。

「お、音楽が」

「音楽? 訳わからんこと言ってると、本当に斬っちまうよ。ほら、早く立て。お前の強さを見極めるから」


 もしかして、この音楽は僕にしか聞こえていないのか。


「立てつってんだろ!」剣の先端が、地面についていた僕の手元に、金属音立てて打ち鳴らされた。

「ひいっ」思い切り彼女に背中を向け、へっぴり腰になって立ち上がる。


 視界に白く縁どられた、黒い長方形が現れた。平面的で、その枠の中には、スキル・殴る・逃げる、と書かれている。祖父母の家にあった、古いゲームの戦闘画面みたいだ。


 見上げると、アリナが笑み浮かべて剣を高く掲げていた。咄嗟に「なにかスキルを発動させてください!」と心の中で叫ぶ。

 体が勝手に動く。両手を顎の下で絡め組んで、すこし屈んで彼女を上目遣いに見上げる。すると、にっと白い歯を見せて笑う彼女の身体がぴたり止まった。笑みも消えて真顔になった。

 

 片手に持っていた剣が、どうでも良さそうに投げ捨てられた。鈍く、重い音が鳴る。そうして、僕は彼女に両脇を抱えられて持ち上げられた。顔が、ふくらみのあいだに埋められる。むよむよのおっぱいの谷間は、ほんのり女のにおいと、温かさでいっぱいだった。


「いいだろう。弟子にしてあげる。恋人は無理だけれど」彼女はそう言いながら、僕の背中を両腕でぐりぐりと、谷間の深いところに押し付けた。


 これ以上の快楽が、この世にあるのだろうか。どさくさ紛れに右手で乳房に触れる。右手は、硬いのと柔らかいのに触れた。どうやら、ちょうど鎧ビキニの上に僕の手のひらはおかれたようだ。


 顔が再び空気に触れた。さっきより強く尻もちをつく。彼女に投げられたのだ。アリナの顔は紅潮し、眉は逆の八の字、怒っている。

「このエロガキ! なにすんだい!」体を半身にして、僕から胸を隠すようにしている。

「ごめんなさい」土下座する。「後頭部が痒くなって、掻こうとしただけなんです」


 気づくと、あの音楽は止んでいた。戦闘は終わったってことだろうか。


「まあいいよ。さあ、付いてきな。宿屋に行こう。仲間が居るんだ」と彼女は言った。


 そういえば、アリナはさっぱりした性格ってPVで紹介されてたな。た、助かった。


 まあ一先ず、落ち着いたかな、これでヒロインたち全員に近づける。しかし、さっきのアリナの台詞が気になる。僕と恋人になるのは無理だって、言っていた。主人公は、アリナルートを選んだのかな。


 全員、僕の女にしてやるぞ!




 


 



 


 




 

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