ヒロイン寝取り~未プレイのハーレム・ファンタジーギャルゲの、脇役クソガキに転生しました。
@umibe
第1話 ゴブリン!
今日は、大変気分がよい。なんたって、楽しみにしていたギャル・ゲームの発売日なのだから。僕は現在、高校生であるが、友人はもちろん、恋人もない。なくたって、人生楽しいものである。
放課後、僕はいつものように一番に教室から出て、学校近くにあるゲーム・ショップに向かった。目的のソフトのパッケージを手に取って、在庫があることを確認する。僕は基本的に、ダウンロードよりパッケージ派である。部屋の棚にゲームソフトのパッケージを並べてにやつくのは、僕のささやかな楽しみだ。
パッケージの裏面には、主人公と、攻略ヒロインの立ち絵が並んでいる。左から主人公、ヒロインA、ヒロインBという具合だ。主人公はまあ、この手にありがちな、特徴のない絵だ。前髪が長く、顔半分が影になっていて、目や鼻が描かれておらず、顔パーツは口しかない。その唯一の口が、邪悪に歪んでいるのは何故だろう。物語のあらすじは、勇者の生まれ変わりである主人公が、ハーレムを形成しつつ魔王を打ち倒すというものだ。これもありがちだが、そんな主人公にこの歪みは似合わない。
気になって、同じタイトルのパッケージを手に取って比べてみる。おや? こっちのパッケージの裏面には主人公の顔がしっかり描かれている。短髪で、爽やかな笑みを湛え、白い歯をこちらに見せつけている。
奇妙に思いながらも、僕は最初手に取った、顔のない主人公が描かれた方のパッケージをレジへ持って行った。
飲食店のバイトで稼いだお金を名残惜しく払う。
そうか。結局手渡されるパッケージは、店側で別に用意されるのだった。どうせだったら、口歪んだ版が良いのだが。思いながら、僕は運よく? 口歪んだ版のパッケージを手に入れることができた。
攻略ヒロインは三名である。ツンデレ幼馴染、男装しているくせに巨乳が隠せていない麗人、女騎士と、僕の好みが揃っている。文句なし!
今日は金曜だから、明日のことを気にする必要もない。思う存分、ハーレム世界に身を浸そうじゃないか。
夕飯もちゃんと食べて、お風呂にも入って歯も磨いた。月曜提出期限の課題はあるが、そんなの日曜にやれば良いのだ。
ソフトを起動する。ローディング画面だ。白の画面の右下に、ハートが伸び縮みしている。『はじめから』・『オプション』の選択項目が表示された。迷わず『はじめから』を選ぶ。
名前は気恥ずかしいけれど、本名である自然と入力する。僕の名前は
「良い名前ですね」とモニターのスピーカーから声が聞こえた。
広い広い大草原の、小高い丘の頂上の大木の葉を揺らすそよ風のように透き通った声だ。でも、キャラクターの立ち絵はもちろん、テキストもない。
「返事をなさい」続けて言われる。
そう言われても、入力画面が出てこない。
「返事しろつってんだろ!」
さっきの声が嘘のような、低い声に「うおっ。怖いな」と思わず声に出す。
「なんだ、話せるじゃありませんか」
なんだはこっちである。なんだこれは、とんでもAIでも搭載れさているのか、このゲームには。
わざとらしい咳のあとに「あなたは、女性を攻略するのはお得意ですか?」とゲームボイスは言った。
「ゲームでなら、得意だけれども」また思わず言ってしまう。
「本当ですか!」まるで声の持ち主が前にのめったように、声が大きくなった。
モニター画面から、にょきっと、かなり早送りの植物成長記録映像みたいに腕が伸びて、僕のパジャマの襟を掴んだ。
驚く暇もなく、僕は画面の中に引きずり込まれた。いくつもの時計が、僕の周囲を蠢いている。それらは液体のようにぐにゃぐにゃだったり、あるいはきちんとした円形であったりする。僕はそんな時計たちを眺めてから、自分がどこかに向かって落ちていることに気付いた。
文字にしがたい、情けない悲鳴をあげる。呑気に、小学生の頃によく、滑り台から落っこちる夢を見ていたことを思い出す。どうせ落ちるなら、巨大な女の子の、ふわふわなおっぱいの上が良いな。
視界が暗転し、落下している感覚が消え、浮遊感のみが残された。しかしそれは一瞬で、僕は再び落ちだした。がさがさ、僕の全身を何かがこすって、終いにどすっと背中を打つ。
揺れる木の葉の隙間から、青い空が見える。どうやら、僕の身体がぶつかって、揺らしたらしい。僕はしばらく、その光景をぼんやり見つめていた。
手のひらをかざす。緑色の手だ。五本の、短く太い指。
「え!」素っ頓狂な声を上げ、立ち上がる。
もう、背の痛みはどこかに消えた。なんだか、背丈も縮んでないか。茂みを掻き分けて、平原に出る。湖があったので、急いで走った。
縁に立って、まじまじ、そこに映る自分を観察する。
慎重に対しやや大きな顔、とんがった耳、目はまぬけにくりっとして、鼻は丸く口は大きい。
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