第19話 殺気立つ
「おら!!回復アイテムを馬車に積み込め!!そっちの予備の武器もだつ!!急げ、急げ!!」
「おい、こっちのロープ持っていくのか?」
「矢の数が足りねーぞ。弓手が何人いると思ってんだ!!」
ギルドの中は戦闘の準備の真っ最中といったところであった。
ドラゴン討伐隊が結成され、結成式が終わり、本格的にドラゴン退治への準備が佳境に入っていた。
ギルドの冒険者、110名も参加する大規模な討伐戦となる。
道具や消耗品、その他必要経費も報酬から支出されるため、一人頭の稼ぎは金貨5枚くらいになるだろう。それでも破格の仕事であった。
「なんじゃ、騒がしいの。お祭りの準備かなにかかの?」
バンッとギルドの扉を勢いよく開いて入ってきた少女は旅から帰還したのが一目でわかるほど薄汚れていた。
全員が乱暴に入ってきた珍客に殺気だった視線を送る。
「……なんじゃあ?なかなかいい視線を寄越しよる。わしゃ腹が減ってる。あまり気分を逆なでしない方がよいぞ?」
イライラを募らせたリーネが鋭い目つきで威圧する。
「それくらいにしとこうや、リーネさん」
”それくらいにしておけ”
俺の声とバイナリィの声がダブる。
「なんだ、バイナリィじゃねーか。結成式にこなかったからてめーは除外されたぜ?子守で忙しかったのかぁ?」
リーネに目もくれず角刈りの男がヘラヘラとバイナリィに絡んでいく。
その瞬間、リーネの身体がフッと消えた。
「リーネさん!!」
バイナリィが大声を出す。
角刈りの男が声に驚き一歩後ずさったのが功を奏した、
男がわずかに下がった場所に剣が突き出されていた。
男があのまま立っていれば腹部に大きな穴が空いていただろう。
リーネが剣を引いて担ぎ直しながら
「……気が立っておると言うたじゃろう?今のわしゃに冗談は通じぬぞ」
一瞬で場は静まり返った。
命拾いした男は唖然としてそのまま尻もちをついて股間を濡らす。
そんな男に目もくれずツカツカとリーネはギルドの受付に進み
呆気に取られている受付嬢に紙を差し出す。
「依頼完了を受領してくりゃれ」
殺気立ちすぎたのが恥ずかしかったのかリーネは目を逸らしながら俯き加減に受付嬢にそう告げる。
その仕草が可愛かったのか受付嬢はほわっと癒され
「あ、はい。えーと……ん?」
にこやかになっていた顔が今度はびっくり顔へと変化する。
なかなか表情豊かな女性だな、俺はそんなことを考える。
「あ、あのぅ。この依頼……ドラゴン退治の依頼ですよね??えーと、この依頼は……受領された記録が……あ、あった。えっと??んん??あ、これ??バイナリィさんが受領?いや、でもほら結成式やっちゃったし???」
受付嬢が軽いパニックを引き起こしていた。
「ま、ますたぁーーー!!こ、これどうしましょぉぉぉぉ」
処理能力がパンクしたのか受付嬢は叫びながら奥へと走っていった。
どうやら面倒なことになりそうだな、と俺はない頭を抱えていた。
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