第18話 ドラゴン退治
リーネは善は急げとばかりにバイナリィを急かし、嵐のような勢いで準備を整えて街を出る。
バイナリィは何度もリーネを説得しようと試みていたが彼女の横暴に巻き込まれるような形で冒険の準備を整えてくれた。
「……なんでこんなことになってんだ??」
元気に歩くリーネの後ろをブツブツと言いながら付いてくるバイナリィ。
お前、いい奴だな。
俺はしみじみと同情した。
そんなバイナリィの心境を、考えもせずリーネは楽しそうに道を歩く。
奇妙なパーティは順調に目的地を目指し歩を進めた。
「襲われた場所はこのあたりだ」
バイナリィは警戒した面持ちでそう告げる。
すでに戦闘準備を整えていつ戦闘に入っても問題ない出で立ちのバイナリィと違い、いまだに舞う様にステップを踏みながらお気楽に歩くリーネ。
さすがに気の毒になってきた。
”リーネ、少しは警戒してやれ。バイナリィがアホにしか見えん”
くるりとジャンプして空中で身体をひねりリーネはバイナリィを見て
「たしかに。あの様子は阿呆のようじゃ。まだドラゴンの気配なんぞ感じんのにの」
そう呟いて嬉しそうにほほ笑む。
なんだかんだリーネはバイナリィの人の良さを気に入っているようだった。
地面に着地したリーネは一旦足を止める。
街道と呼ぶには道は整備されていないが切り出された谷のようなこの場所でドラゴンに襲われれば逃げるのも困難だろう。
だが、巨大なドラゴンが襲ってくるには少々狭い気がする。
”
”リーネ、どう思う?”
「拓けた場所ではないの。こんな狭い場所ではドラゴンも暴れられんじゃろう」
お茶らけていたわりに冷静なようだ。
”その様子だとおまえ、ここにドラゴンがいないと最初から知ってたな?”
「フフフっ、ケントは聖剣のくせにあまり物知りではないようじゃの。ドラゴンはな、数が極端に少ないんじゃ。それに賢い。よほどのことがない限り人の前には姿を現さんよ」
”……おまえ、それを知っててあの時ドラゴンを倒したのかよ、許してやればよかったのに”
「阿呆か!!あの時、あやつを食わねばわしゃが死んでおったわ!!そんな気遣いしてられん」
ぷいっと顔をリーネが拗ねたように顔を背ける。
”まぁそうだったけど……”
俺がリーネにもうひとこと言ってやろうとした矢先
「……くるぞっ!!」
リーネが後ろのバイナリィに向かって叫んだ。
正面の岩陰からのそりと爬虫類の顔が現れる。出てきた頭だけで人一人分の大きさがあった。
蛇のような、カエルのようなその顔は……ドラゴンの物ではなかった。
「……アリゲミュートじゃな」
アリゲーターと言われる巨大なワニに似たのモンスター。その亜種と目されるモンスターだ。身体がでかく、たまにドラゴンと勘違いされやすいモンスターである。
いや、人間の間ではこいつをドラゴン、と呼んでる説まであるほど危険なモンスターには違いがなかった。
相手がドラゴンでないとわかってリーネは落胆していた。
俺としてはドラゴンでないのは僥倖だ。なんせ激闘の中、バイナリィを気遣うのは骨が折れそうだなと考えていたからだ。
「あれ、美味くないんじゃよ…‥」
リーネは心底残念そうにぼそりと呟いた。
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