第一章 回復術師編

第3話 無能追放になりました

「おい!!聞いてんのかっ!!このウスノロ!!」


 男の声で俺はハッと我に返る。


「あ……ああ。聞いてるよ。……い、いや、聞いてなかった。なんの話だっけ??」


 俺は目の前でイラついている男に曖昧な返事を返す。


「チッ、聞いてねぇじゃねーか」


 男は盛大に舌打ちをしてそう吐き捨てる。

俺は少しはっきりしない現状を確認するように記憶を辿る。

確か転生してスライムを仲間にして……


「だからよ、オメーはクビだっつってんだよ。使えねー回復術師はいらねぇって言ってんだ」


 霧がかった思考の海を漂ってるところを目の前の男の怒声が邪魔をする。

そこまで言われて、やっと自分のことをはっきりと認識した俺は慌てて食ってかかる。


「なっ!!そんな!!ずっと一緒にやってきたじゃないか。回復術師はいらないと言われてから雑用も全て引き受けて……」


「その雑用で失敗したのはテメーだろーが!!」


S級冒険者のパーティリーダー、トーリは怒りに任せてテーブルに拳を叩きつける。


「そ、それはトーリがダンジョン内でいつもの倍食べるから食料が足りなくなっただけで……」


「ああっ(怒)!!テメェ俺は前衛で腹いっぱいにしてなきゃ戦えねーだろがっ!!

テメェみてーに何もしなくていいわけじゃねーんだよ!!」


 トーリが怒り頂点に達したように喚き散らす。

言ってることはわかるが理不尽だった。

 俺は救いを求めてその場にいる他のパーティメンバーの顔を見る。


魔法使いのナギ

拳闘士のザハル

幻術騎士のアラハ。


 皆俺と目を合わせてくれず何も言わない。

これはだめだな。俺は諦め肩を落とす。


「……わかった。出ていくよ。今までありがとう。君たちと一緒に冒険できて嬉しかったよ」


俺はそれだけ言うと立ち上がってこの場から去ろうとする。


「待てよ」


 トーリは俺を呼び止める。

一瞬考え直してくれたのかと思い彼を見ると


「お前の持ち金は俺たちの運転資金だ。全部置いてけ」


ニヤケ顔のまま冷たくそう言い放たれ、俺は何も言い返せずにアイテムBOX内にあった有り金を全部机の上に出してこの場を後にした。


「はぁ……」


 酒場を出た俺はトボトボと歩く。

有り金は全部置いてきた。

仕事をしないと今日の晩飯にすらありつけない。


「ステータス」


ぼそりと呟いた俺の視界に出た自分のステータスを確認する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

レベル:   22

なまえ:けんと

ねんれい:17

しゅぞく:にんげん

しょくぎょう:かいふくじゅつし

HP 9999999999999/9999999999999

MP 9999999999999/9999999999999


ちから :  99999

ちりょく:  99999

まりょく:  99999

すばやさ:  99999

きようさ:  99999

みりょく:  99999

すたみな:  99999

じょうたい:ついほう

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル

【魔物操術】

【自動守護】

【完全回復】

【全体完全回復】

【自己再生・特】

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 回復術師。


 今この世界で回復術師は必要とされてない。

なぜなら【自動守護】と言われるスキルが人間全員に付与されたからだ。

これは全身を守るバリアが一定数の攻撃ダメージを受けるまで身体に影響を及ぼさないスキルだ。冒険者が戦闘でこのバリアを貫通してダメージを受けることはほとんどなくなってしまった。しかも時間経過でバリアの耐久度は回復するのだ。

 これでは回復術師の出番はない。

世の中の回復術師たちは俺を置いて皆転職していった。

 じゃあお前も転職しろよって?そりゃ俺だって考えたさ。でも俺は回復術師の高みであるスキル【全体完全回復】を持っている。これは回復術師にしか得ることのできないスキルだ。転職すれば失われてしまう。


「はぁ……」


 俺はもう一度ため息をつきアイテムBOXを開く。


「ユリエ」


 名を呼ぶとポンと俺の手の上に青く丸い球体が現れた。

相棒のスライム、ユリエだ。


「この先、どうしようか?ユリエ」


 俺はユリエを撫でながら考える。

金がない以上稼ぐしかない。


「とりあえず冒険者ギルドに行って仕事をもらうか」


俺は気を取り直してポーンと軽くユリエを空に投げる。落ちてきたユリエは上手く俺の肩に止まるとブルっと身を震わせた。

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