第155話 終演開始

 ———時間は進みステージに上がる時間だ。丹菜達は今回もローブを羽織り、仮面を付けてステージ袖に集まっている。俺は丸出しだ。……言葉足らずでなんか変質者みたいだな。言い直す。俺は顔を丸出しだ。


「今日は一日疲れました」


「みたいだね。でも最後残ってるから頑張って」


「ちょっと気力が……」


「で、正吾君はそのスタイルで出るの?」


「あぁ、手っ取り早く周知するにはコレが一番!」


 俺の首には「みさきしょうご」と平仮名で大きく書かれた札を下げている。

 

「前の組が終わったみたいだな。それじゃあ行くか」


「だな」


 俺達は最後になるステージにゆっくり向かう。特に気合いを入れるわけでもなく……。

 ステージに上がると、観客の数が昨日より凄い人数になっていた。「ハイスペックスが今日で最後」という話が実行委員から漏れたというより、そう告知したようだ。それに二枠貰ったから文句は言えない。


 最初にステージに上がったのは波奈々だ。勿論顔は丸出しだ。波奈々が上がると女の子から黄色い声援が上がり、男子も歓声を上げる。


「キャー! 波奈々ちゃーん♪」

「ばーななー♪」


 手を振って応える波奈々。その中を俺が舞台に出る。すると会場が響めいた。


「おい、あれって正吾か? 胸に名札ぶら下げてんな」

「さっき本人に聞いたらトゥエルブって言ってた」

「正吾マジカッケーな……」

「あれ? それじゃぁあの写真って……」


 そしてフードを被り仮面を付けたままの残りの四人がステージに上がる。そして手際よくセッティングしていつもどおり、陽葵が最初に音を鳴らす。


“ピピッポピン♪ピピッポピン♪ピピッポピン♪ピパッポポン……♪”


 同じ旋律を繰り返して皆が整うまで待つ。少しして波奈々が和音一つを押しっぱなしでボリュームを徐々に上げる感じで入ってきた。音に厚みが増す。次にドラム。暫くしてベース。最後に、


“チャウィーン♪ティリティラキュイーン♫ティリティラティリティラティリティラティリティラ……”


 俺がギターの音が走りらせると、


「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


「マジだ! マジで正吾がトゥエルブだ! アイツ三年も隠してたのかよ!」

「スゲーよ! 全然スゲーよ!」


 そして一曲目のイントロに移り曲が始まり、丹菜が歌い出す。

 丹菜の第一声は、Lallapaloozaに慣れてしまったのかいつも以上に声に熱が込められて歌い出していた。だが俺達もレベルアップしている。皆それに動じる事なく丹菜の声に応えながら熱を入れて行く。


「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 熱い! 会場のボルテージも上がり、更に熱が加わる。皆丹菜に付いて行けてる。惜しむな……最後の最後で最高の音になって行く。このまま引退するのは勿体無いって思ってしまう。


 そしてサビに移り間奏に入る。丹菜は天井に向かってホイッスルボイスを発した。するとフードが頭から取れ、アップに纏めた栗色の髪が顕になった。丹菜はそれを気にも止めずに歌い続けた———。


 ——— 一曲目が終わり、少し余韻に浸る。観客は歓声を上げ盛り上がっている。俺は丹菜達四人を見る。丹菜は会場全体を見渡してゆっくり仮面を外した。後ろの三人もフードを取り仮面を外す。


「おおおおおぉぉ………お?  え? おい……あれって……」

「葉倉さん……希乃……ウソ……」


 すると歓声は響めきへと変わり、静かに驚駭きょうがいの声が上がった。

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