第106話 同居

 ―――夕飯……久々の一家団らん……では無い。丹菜がいる。丹菜が居るんだが……お客さんって感じじゃ無い。すっかり御前家に溶け込んでいる。馴染んでいる。遠慮すること無くテーブルの中央にある料理に箸を伸ばしている。パクパク食べてて見てるこっちが

「美味しい」って思ってしまう。良い食べっぷりだ。

 お袋が娘の如く、お願い事とか気兼ねなくしてるせいか? そのせいか丹菜も気を遣うことが無いようだ。


 食事をしながら俺は親父に次の行き先を聞いてみた。


「今度の国はどこだ?」


 すると意外な答えが返ってきた。


「おお、そのことなんだけどな、もう、海外に行く予定は無くなった」


「ん? …………と言うことは……この家に住むのか?」


「ああ、そうなる。この春から暫くはこの街の支店勤務になった。と言うことで、正吾、お前の一人暮らしも終わりだ」


「―――ちょっと待て。俺の一人暮らしが終わりなのはいい。丹菜はどうする? あのマンションに……また……本当の一人暮らしに戻るのか? もしそうなる———」


 俺が言い終わる前に親父が言葉を遮った。


「丹菜ちゃんさえ良ければ、ここで俺達と一緒に暮らさないか? 遅かれ早かれ俺達、家族になるんだしな」


 親父はそう言いながら丹菜に向かってウィンクをする。しかし、親父のウィンクはスマートじゃない。ウィンクなんてどうでもいい。親父の話は結婚ありきの話だ。なんか、丹菜の逃げ道を塞いでいるようでちょっと申し訳無い気がする反面、一緒に住むのは正直嬉しい。


「丹菜……なんか追い込んだ感じになってると思うんだが……一緒に住むか? 俺はその方が嬉し……安心出来るんだが……」


 あぶねぇ……「嬉しい」なんて、丹菜の気持ちも考えずに思わず本音が出ちまった。丹菜を見ると、俺の言葉を聞きのがして……無い! ニコニコだ。いや、ニヤニヤだ。ただ、ちょっと何か考えてるようだ。気がかりなことでもあるのか? そして丹菜は口を開く。


「正直、私は御前家の皆さんと一緒に住みたいです。住みたいですが、今はまだ未成年です。なので幾つか考えなきゃならない事があると思います」


「……ふむ」


 親父は頷きビールを一口。


「まず、私の叔父さんです。叔父さんに許可を貰わなければなりませんが……多分、これは報告だけでいいと思います。以前、心花さんにメールしたとおり、叔父さんは正吾君との結婚には前向きというか……大賛成なんで……」


「その話しは俺も聞いたよ。丹菜ちゃんの叔父さんについては問題無いね……春休みなんか予定あるかい?」


「いえ……得には……正吾君、何かありますか?」


「いや、無いぞ」


「だったら……正吾、土曜日バイト休みだったな」


「ああ」


「なら、今度の土曜日、瑠衣の墓参り兼ねて叔父さんのところに皆で行こうか?」


「はい! 是非お願いします。母も喜びます。では今度の土曜日に伺う事、叔父さんに言っときますね」


 突然だが御前家一同、丹菜の叔父さん宅へお邪魔することになった……って、これってなんか結婚前の両家ご挨拶みたいだろ! 俺らの関係と叔父さんの心情と今の環境からどう考えてもそういう風にしか見えないんだが……丹菜を見ると、まだ難しい顔をしている。まだ何か気がかりなことがあるのか?


「次に……これは大吾さんの性格から『要らない』って言われそうなんで先に言っちゃいますが……」


「うん。生活費は要らないよ」


 丹菜が話す前に親父は先読みしてにこやかに断った。丹菜の表情から言いたかったことは図星だったようだ。


「図星だったようだね。生活費は別に要らないさ。気にする必要は全然無い。食費に関しては丹菜ちゃんも分かってると思うけど『少ない量を作るのは難しい』からね。それに心花と丹菜ちゃんの食べる量なんて俺と正吾に比べたら全然だろうから三人分も四人分も大して変わんないよ。光熱費も男と女、逆な感じで同じだね」


「確かにそうかも知れませんが……」


 親父の隣でお袋はニコニコしている。


「それに貰ったところでそのお金は使わずに取っといて、お前らが結婚した時に全額返しちゃうもんね」


「そう言われちゃうと……分かりました。生活費については宜しくお願い致します」


「ふむ。分かれば宜しい」


 そう言って再びウィンクするが……なぜ一々ウィンクする?


 丹菜はまだ何かを言いたそうにしているが……一旦話を切り上げるようだ。


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 と言うことで、時間は進んで土曜日。俺達一行はレンタカーで丹菜のお袋さんのお墓へ向かった。

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