第95話 突飛
———前話から時間は遡って、今日は一月一日、正月だ。
俺は丹菜と去年と同じ神社に初詣に来ていた。
「なんか去年と違って気持ちが晴れ晴れしてます」
「だよな。去年は気持ちはあったけど付き合う前だったからモヤモヤしてたもんな」
「そうですよ。しかも高瀬さんと佐藤さんの前で『彼氏だ』って一言言ってくれれば、私はバレンタインであんな暴走する事無かったんですよ!」
「ごめんな、俺ヘタレだからさ……」
「でもいいんです。逆に公に出来ましたから。ここで付き合ってるって事になってたら、多分内緒のお付き合い続けてたと思いますよ」
「まぁ……そうだな。そういう事にしてくれ」
「今年も最初に絵馬で写真撮るんですよね?」
「ああ、そうするか」
境内に着いた俺達は、去年と同じ絵馬の写真を撮るため列に並んだ。流石に今年は目の前に並んでいるのは家族だ。高瀬達の様な遭遇は無い。
そして待つこと10分、俺達は目の前の家族の写真をとってあげて、今度は俺達のカメラを後ろの人に渡して撮影をお願いしようと振り返ると……。
「あれ? 丹菜と……あ……」
「あ! 波奈々と……
正吾君がこの場を仕切る。
「取り敢えず、後ろが待ってる。早く写真撮ろう」
・
・
・
「ビックリしました。振り向いたら波奈々と……誰ですか?」
「えーっと……Eクラスのオタク君です」
波奈々が丹菜に紹介する。
かなりビックリした。意外な組み合わせだ。本当に意外な組み合わせだ。文化祭の準備で同じグループで作業をしていたオタク君と波奈々が一緒に居るって……これ、去年の俺と丹菜が一緒に居る以上に衝撃的な光景だぞ。
「初めまして葉倉さん。御前君と同じクラスの『小宅十斗』と言います。今日は御前君じゃなくて……もしかして新年早々浮気ですか? これまた剛毅なことで何よりです」
流石にオタク君も丹菜のこと事は知っている。でも髪を上げてる俺には気付かないか……しかし『浮気』で『剛毅』って……このままだと丹菜に変な噂が立つな……そう言えば、オタク君達ってバンドとか……現に俺がトゥエルブって分かっていないようだし……俺はオタク君の目の前で髪を下ろして見せた。
「俺だよオタク君」
「あ、なんだ御前君か。ビックリしたよ。葉倉さんの浮気現場目撃したって思ったよ」
思ったとおり、トゥエルブを知らなかったようだ。
丹菜は不安の表情だ。オタク君にハイスペックスについて色々質問している。
「あの……小宅さん……突然の質問ですけどハイスペックスってご存知ですか?」
「え? ハイスペックスですか? ハイ、名前とバンドのグループって事は存じておりますけど、それだけです」
「メンバーの名前とか……」
「トゥエルブって人だけ名前は知ってます。でも残念ながら顔は存じておりません」
「そうなんですね?」
俺は丹菜にドヤ顔をした。
「オタク君は文化祭の準備の時、同じ作業グループになってな。俺の絵の師匠でもある」
「そうだったんですね」
「お二人はこれからの予定ってあるんですか?」
「今から拝殿に行くところ」
「私達もこれからなんですけど、よかったらご一緒しても宜しいですか?」
「うん、十斗君いいよね?」
「うん、僕は全然いいよ」
ほほぉー……二人の時は名前で呼んでんのかな? 波奈々だけが呼んでる感じか? いや、オタク君隠してるかも知れないな。波奈々は素が出たか。そして二人は付き合って……そんな事を考えていたら、丹菜が波奈々と何やらコソコソ話している。俺もオタク君に聞いてみるか……。
「な、オタク君は波奈々と付き合ってるのか?」
「いえいえ、そんな間柄じゃ無いですよ。冬休み前、浅原さんに神社の事を聞かれて色々詳しく教えたら、初詣一緒に行って神社の事もっと詳しく教えて欲しいと言われて今日来たんです。確かに彼女は素敵な人ですけど、僕とお付き合いなんて恐れ多くてできませんよ」
「一応、それなりに気はあるんだな?」
「何を言ってるんですか、彼女みたいに素敵な方、気が無い方がおかしいですよ」
「そうか、それじゃあ俺達は後ろで控えてるから、何かあったらいつでも声掛けてくれ」
「それは心強いです。何かあったらその時は宜しくお願いします」
俺達は四人揃って拝殿で神様にお願い事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます