第85話 申請
———昼休み。浅原兄妹がこの時間、珍しく部室に来ていた。
「兄)前も話したとおり、文化祭のステージ、僕ら兄妹と出て欲しいんだけどダメか?」
「空)その事で皆と話したんだが……ハイスペックスとして出たいんだろ?」
「兄)ああ、だって今、ハイスペックスのメンバーと、毎日のように演奏してるとさ、こう……僕もハイスペックスの一員みたいに思えてきて……それに新しい学校でも一つ大きな思い出残したいかなってね」
「空)俺達はハイスペックスのメンバーに
「兄)なんか変な言い回しだね……歓迎してくれるなら一緒に演奏してもいいんじゃないか?」
「空)多分、無理なんだよ。お前らの音楽に対する熱量じゃ。 ……丹菜の歌に殺される」
その言葉に、浅原兄妹は「何それ?」って言いたげな顔になった。
「妹)『熱量』って……どういう事?」
「空)じゃあな、最初から説明するけど、トゥエルブが俺らとバンド組む前、なんて呼ばれてたか知らないだろ?」
「兄)……呼ばれてたって……どういう意味だ? ……分からないな……なんて呼ばれてた?」
「空)ボーカル殺し」
「兄)なんだそれ? 『ボーカル殺し?』随分物騒な呼ばれ方されてんな?」
「空)まぁな、コイツがギターを弾くとボーカルの声が霞んで歌が耳に入って来ないんだよ。でもそれは大河、お前のギター聴くに、お前も向こうで同じ感じだったんじゃないか?」
「兄)あー……確かに。そんな理由でメンバー降ろされたことがあったね」
今度は俺が説明する。
「正)で、初代ハイスペックスメンバー、空、大地、陽葵達の異名は『ギター殺し』と『ボーカル殺し』だ。そこに俺が入って、自分で言うのも何だが、『ただ演奏が上手いだけのバンド』が出来上がった。 ……そこで丹菜だ」
今度は陽葵が話す。
「陽)……あのライブハウスで丹菜にもそんな異名が付けられたの。 ……なんて呼ばれてるか……当ててみ?」
「兄)……何? 『殺戮の天使』とか?」
「陽)結構近いね。でも正解は———バンド殺し」
「妹)バンドって……パートじゃなくて組織事殺しちゃうの?」
「陽)そう。丹菜の歌声って演奏かき消すくらい迫力が凄いの。こんな華奢なのにね。で、春に一回、
陽葵の言葉に兄丹菜を見て目を大きくしている。
「私達だって毎回必死で丹菜に食らいついてやっと演奏してんの。結構大変なんだよ? だからって練習しても意味ないよ。この子練習と本番、全然別人だから」
浅原兄は全然納得いってない顔だ。
「兄)それってやる前から白旗上げてるって事だろ? それは僕の主義に反するね。それに一回くらい、希乃さんとも演奏してみたいし……多分、いい感じで演奏できそうな気がするんだよな。波奈々も御前君と演奏してみたいって言ってたよな?」
「妹)うーん……まぁね。正吾君とは一回くらい一緒に弾いてみたいけど、それ以上に皆と演奏するのは楽しいし、『バンド殺し』ってのにも興味が湧いてきたから……うん、ステージ立ちたいね」
俺は波奈々の言葉を聞いてちょっと期待が膨らんだ。
「正)空、いいじゃん、一緒にやろうや。波奈々も俺と一回演奏してみたいって言ってるし、時間15分だっけ? なら大体三曲だな。一曲目は陽葵と大河。二曲目は俺と波奈々。三曲目は……様子見てだな。それでどうだ?」
「空)それなら問題無さそうだ」
「兄)三曲目の『様子見て』ってどういうことだ?」
「陽)うちら、まともに予定の曲数で終わったこと殆ど無いの。誰か暴走して、演奏時間伸びちゃうから三曲準備したら、大体二曲で終わっちゃうね」
「正)それと、全員、練習どおりに弾かないからそのつもりで」
「妹)何それ? なんか面白そう」
「兄)ちょっと待て、練習どおりに弾かないって……え? 今までの練習って何?」
「陽)言葉どおりだよ。丹菜の歌に当てられると、皆ハイになっちゃって間奏のソロなんて、良くて全員で取り合い。最悪、バトルだから」
「兄)ちょっと待て! なんだ? バトルってなんだ?」
「正)文字通り『バトル」だよ。ギターでテクニックのバトルとかあるだろ? あれだよ」
「兄)ちょっと待て! バトルって、同じ楽器でやるもんだろ? まさか、ギターとキーボードで―――」
「正)そのまさかだよ。ま、殆どが陽葵がケンカ吹っ掛けてくんだけどな」
「陽)煩い! 丹菜が悪いんだ! あんな煽るような歌い方して!」
「丹)ひっどーい! 私煽ってなんかいませんよ! 大体陽葵、ケンカ吹っ掛けた時の顔、最高に楽しそうじゃ無いですか!」
「陽)うん。楽しいね♪ ってわけで、楽譜がギターソロな譜面になってても、全員無視して自分がソロ弾こうとするから宜しくね♪ しかも、その時の演奏、100%アドリブだから、ソロ取られてもそれに合わせて伴奏宜しく。負けたからって凹んでる暇無いよ」
「兄)ハハッ……鳥肌立ってきた」
「妹)あはは♪ なんかとんでもないバンドに関わっちゃったね大河」
「兄)———試されてるのかな?」
波奈々は音楽を楽しんでる方だ。尤もコンクールでクラシックにロックを混ぜるようなやつだ。感性は陽葵と同じなんだろう。
「空)申し込みは愛花出して来てくれるか? 『謎の男からこの紙を渡された』とか言ってさ。バンド名はそのまま『ハイスペックス』でいい。あと、実行委員には『あとのバンドがハイスペックスの演奏で自信無くすから、最後の出演でお願い』って言っといて」
「分かった。後でご褒美頂戴ね♡」
「いいよ」
芳賀さん凄く嬉しそうだ。
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