第84話 素直

 ———俺達セット班は準備が着々と進んで、殆ど作業が終わってしまった。俺は毎日バイトがあるから途中で帰ってたが、特に文句を言われなかったのは去年のクラスメイトが説明してくれたからだ。有難う。

 そして、我がグループにいた「ザ・隠キャ」な面々は、ただの隠キャじゃなく「純度120%の創作系オタク」だった。因みに男2、女1の三人共だ。

 作る物全て、手際良く、技もあり、そしてオタク特有の喋りで繰り出す指示は凄く分かりやすく、全員の制作の技術力を底上げしてしまった。俺もちょっと筆使いとか上手くなった。

 この文化祭をキッカケに一組カップルが誕生するがそれは後で話すとして、出来上がった物を皆にお披露目すると余りのクオリティーの高さに逆にドン引きされると言う事態になった。


「ちょっとこれ、リアルすぎてマジでビビるって」

「怖くて誰も最後まで歩けねーよ」


 他の班は、流石に作業は終わっていないので俺達は手伝いに回った。創作系オタクの男の一人は実は色塗り系が得意だったらしく、最初に作った物に上塗りして生々しいほどにリアルな絵を描き上げた。波奈々も目を丸くしている。


「私、彼女らに謝んないと……正直見下してた。やっぱ自分に無い物持ってる人って尊敬できるね」


 波奈々、結構素直でいい奴だって事が最近分かってきた。


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 手の空いた波奈々は、毎日違うグループの手伝いを率先してやっていた。見ていると、結構人に尽くすタイプのようだ。しかも人を選んでいない。多少自分を犠牲にしても物事を進めていく姿に皆、彼女の好感度が上がってきているようだ。

 そして、一つ物が出来上がれば共に喜び、失敗すれば共に反省する。シンプルに「いい子」だ。いや、「美少女でいい子」だな。


 気付けば彼女の親衛隊なる組織が立ち上がっていた。聞けば「彼女がヨシとする事を後押しして見守る集団」なんだとか……だから彼氏が出来たら彼氏ごと見守るとか言ってる。それってもう彼女に対する「愛」だろ。


 そんなある日、波奈々からバレンタインの話を聞かれた。


「そう言えば聞いたよ、葉倉さんの大告白。凄いね彼女。ホントに皆の前で告白したんだ?」


「まぁ……あれは本当に参ったよ。突然だったからな」


「でも、その前から仲よくしてはいたんでしょ?」


「それなりにな。そうだ、お前ガム食うか?」


 俺は何となく波奈々にガムを一枚差し出した。


「うん、ありがと。はぁーあ……羨ましいな。私もそういう行動取りたくなるような人現れないかな……」


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 ———ある日の放課後……俺は大河と連んでる奴らの妙な行動を丹菜から聞いていた。その事実関係を波奈々に聞いてみた。


「波奈々、大河って……どんな男なんだ?」


「どんな男って? なんかしたの?」


「いやな、丹菜から聞いたんだが、最近、大河の取り巻きみたいな奴らが、陽葵と大河をくっつけようと囃し立てて来てるらしいんだ。他にも女を食いまくってるなんて話も聞こえてきてるしな」


「あー、それねぇ……まず女を食ってる話はホントね。大河その辺節操ないから」


「マジかよ……陽葵大丈夫か?」


「ちゃんと相手の同意でやってるからそこは信用して。因みに双子の私はまだ処女ね」


「———それは聞かなかった事にする」


「で、取り巻きの方なんだけど、これは少し厄介なんだよ」


「なんだ? 厄介って……」


「皆でやるような……芋煮会だったり文化祭だったり、皆で取り組むようなイベントがあると、大河、率先して行動するんだよ。で、最初は皆を助けるような感じで物事こなして行くんだけど、人間助けられてばかりいると段々恩を返さなきゃって気持ちが膨れるんだろうね? 気づくと、周りの子達、大河が喜ぶ事を探し始めてるんだよ。で、行動に移すの。そしていつのまにか宗教の教祖みたいな扱いになってるわけ」


「それメチャクチャ怖いやつだろ」


「前の学校でも大河が原因で一人イジメにあってたね。『何で大河の彼女にならないんだ』って」


「はぁ? それって……大河の彼女になったとして、大河本人嬉しくないだろ」


「そうなの。流石に大河も困っちゃって……最終的には大河がイジメをしてた子達に土下座して止めてくれってお願いしてたけどね」


「それもなんか凄い結末だな。大河の為に動いたはずが大河を土下座させてしまうって……イジメてた本人、気が狂いそうになるな」


「そうなの。その子達、暫く学校来なくなっちゃって……で、今度は大河、一人一人その子達の自宅を回って説得して歩いたんだよ」


「あいつも苦労してるな」


「今回、希乃さんがターゲットになってるから気を付けてね」


「分かった。サンキューな」



 なんか段々面倒な事になってきた気がする……。

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