第87話 催物
―――文化祭当日。2-Eのお化け屋敷は入り口が既にとんでもないクオリティーの装飾になっていて、廊下を含めて、これまたとんでもない状態になって居た。
「ちょっと、演じる俺らも怖いんだけど……」
「張り切り過ぎましたか?」
お化け役が怖がるお化け屋敷って……。文化祭の空気に浸っていたら暇している波奈々から誘いの声を掛けられた。
「正吾君、一緒にお化け屋敷入ろうよ」
「すまん、俺は丹菜と最初に入るって約束したから他の奴と入ってくれ」
「えー! しょうが無いなぁ。誰か……あ、オタク君一緒に入ろ♡」
「ぼ僕でですか?」
「そ、君が作った作品、一緒に見ようよ♡」
「ぼぼ僕でよよろよろしければ」
「何その喋り方、ウケるー♪」
浅原妹は同じ作業グループでそこそこ仲良くなったオタク君と一緒にお化け屋敷に入って行った。
俺は去年の教訓から、脅かし役の奴に忠告しておいた。「誰が入っても平等に脅かすように。去年、入る人で脅かし方変えてたら丹菜、クラスの男全員嫌いになったって言ってたぞ」と。
うちの催し物の客、第一号に波奈々とオタク君が入って行った。
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しかし静かだ……脅かす声も悲鳴も聞こえてこない。
暫くして部屋から出て来た波奈々だが……オタク君にしがみついて顔面蒼白でガタガタ震えて居た。オタク君は鼻の下が伸びきっている。
「こ、怖過ぎて……ひ……悲鳴も上げられ……なか……った……」
「———中で何が起きてんだ?」
「これ、洒落になんないって。ちょっと今夜一人で寝れないよ……オタク君、折角だから一緒に寝て♡」
「ぼぼ僕ですすか?」
「冗談だよ♡」
「そうですか……」
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暫くして丹菜が来た。
「へっへー♪ 来ちゃいました♡」
「待ってたよ。じゃあ入ろっか」
丹菜は俺の腕にしがみつき、怖がる準備をしているようだ。
入ると薄暗い通路だが、置いてある小道具、セット類は妙に生々しい。腕とか首とか目玉とか……ちょっと一つくらい本物交ざってんじゃないのか?
「———ひ!」
突然、通路に人が現れた。現れたというよりただ立ってた。黙って無表情……虚ろな目で立っている。特に衣装を着ているわけでもなく、顔色が悪い感じに見えるように光を当ててる? 「何もして来ない怖さ」がひしひしと襲ってくる。
「正吾君、めっちゃビビりました」
「俺も。全然悲鳴聞こえないからなんだと思ってたけど……これは怖いな」
今度は角を曲がると、五歩くらい目の前にゾンビ風な衣装を着た何かが立っていた。
「———ひ!」
これは俺もビビった。人形? 動く気配が………
「———(ひゃ!)」
突然、ゾンビがあり得ない動きをしてこっちに進んできた! そしてゆっくり元に戻る。
この「何もしない」「ただそこに居る」って言うのがどれだけ怖いか……お化けは全部で四名。少ないと思うが凄く効果的な位置に配置されていた。
部屋を出ると丹菜は顔面蒼白になって俺にしがみついていた。
「これ、R15とかに設定にしないと子供はトラウマになっちゃいますよ」
「俺もそう思う……ちょっと言ってくる」
「それと今夜一緒に寝て下さい」
「しょうがないな。今夜はいいよ」
「やった♡」
「エッチは無しな」
「えー!」
午後から、子供が入る時は少し手を抜くようにした。
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———時間はお昼を過ぎ……結構経っている。
丹菜のクラスに顔を出そうと教室から離れると波奈々も一緒に付いてきた。
「正吾君どこ行くの?」
「軽く飯食いにな」
「じゃぁ、一緒に行こ♪」
「付いてくるな!」
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「———丹菜、来たぞ」
「いらっしゃ……正吾君♡ ……と、何であんたが一緒にいるの! 浅原波奈々!」
目の前で繰り広げられる丹來と波奈々のコントを見ながら飯を食った。周りを見ると結構な客さんが入っている。オタク君とその仲間達も俺より前に入店していたようだ。
周りの客に迷惑なるので、波奈々に噛み付く丹菜を静かにさせるために、「静かにしたらご褒美に家で甘えさせる」と言って丹菜を制止した。そして俺は食事を終えると教室に戻った。
今回の文化祭は流石に丹菜と同じ時間に長時間休憩を取る事は出来なかった。一緒に回る事は出来なかったが、お化け屋敷に一緒に入れたしそれなりに楽しく初日は無事に終了した。
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———夜になって俺の部屋だ。丹菜は俺の膝の上に横抱っこして座っている。柔らかくて細くて適度な重みが心地よい。今日、丹菜に我慢させたご褒美に甘えさせてみたが、普段からやってることなのでご褒美でもなんでも無かった。
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