第53話 会食
―――夕方ちょっと前。俺はバイトがあるので丹菜を一人残して出かけなければならなかった。親父達が間もなく帰ってくるが……丹菜一人、親父達の相手をさせて大丈夫だろうか?
エレベーターに乗り一階に降りる。そして扉が開くと目の前に親父とお袋が立っていた。
「お? 正吾、今からどっか行くのか?」
「ああ、バイトだ。今、丹菜が一人で部屋にいるからあと宜しくな」
「ところで丹菜ちゃんの様子はどうだ?」
「丹菜のお袋さんの動画見つけて喜んでたよ。気持ちも落ち着いたみたいだな。ただ、事故の話しは聞かない方がいい。俺から聞いたことは無いし、向こうから話した事も無い……多分話したくないと思う。俺からの忠告はそれだけだな」
「わかった。ところでバイトってどこだ?」
「『ロイヤルホテルFUKAGAWA』の隣のレストランだよ」
「あそこか! 後で行っていいか?」
「―――そうだな。今から夕飯の準備大変だろうし、丹菜も一人になりたくないだろうけど、知らない人と居るのも辛いだろうからいいぞ。それに店に来たこと無いから喜ぶんじゃ無いか?」
「分かった。丹菜ちゃんに気を遣ってない素振りで上手く連れ出してみるか……」
「因みに、スーツ持ってるか? ネクタイ着用なんで宜しく」
「ほう。それは楽しみだ」
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バイトに向かいながら、以前丹菜から聞かされた子供の頃の話しを思い出していた。
丹菜は、小学5年生……両親が亡くなるまでは、活発な子供だった訳でもなく、可も無く不可も無く、目立たない子供だったらしい。ただ、本人の言う話しだから「目立たない」がどこまでなのかは疑問だ。
そして、両親が亡くなってから親戚の家に移り、当然、学校も転校。転校すれば最初は周りに人が集まり、友達を作るチャンスになるが、当の本人は両親を亡くして気分は落ちているから友達なんか作る気分にもならないだろう。
そんな暗い転校生は見向きもされなくなるのに時間は掛からない。結局、「根暗な女の子」のレッテルは中学に入っても取れず、元の明るさを取り戻した頃には時既に遅く、結局友達は出来なかったらしい。
そして、高校生になる時、一人暮らしを申し出て、親戚の叔父さんの勧めでお袋さんが住んでいたこの街に来たということだ。
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バイトも時間はディーナ―の時間帯に入った。仕込みの仕事も終わり、俺は今、ウェイターとしてフロアーに立っていた。
「そろそろ来る頃かな?」
仕込み中は問題無いが、ウェイターとしてフロアーに出る場合、スマホの携帯はマナーモードでも禁止されている。なので俺は親父達が来た事を知る術を持っていない。
なので、この日はチーフに家族が来る旨を説明して来客のテーブルへの案内係を中心に対応していた。
すると、三人の見慣れた姿が扉の前に現れた。親父達だ。
親父はお袋を差し置いて丹菜をエスコートしている。悔しいが様になっているのは年の功だ。俺じゃ役者不足だ。多分様にならないな。
しかし……いつもガーリー系の「可愛い」服が多い丹菜だが、今日はフェミニンに「綺麗」に仕上がっている。それにエスコートされてかなり満足げだ。
俺は、テーブルへ案内するべく、三人の元へ出向いた。
「いらっしゃいませ―――」
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