第2話 申請
―――今日も一日が終わり、自分の部屋に帰ってきた。
訳あって、夏休みから一人暮らしをしている。
部屋に戻ると、男の部屋だ。―――物は全然片付いていない。ロックな部屋だ。
ただ、ギターだけは大切にスタンドに立てている。親父のお古も合わせて四本持っている。
普段は、帰ってきたら部屋でギターを弾いて、気が向けば作曲なんかもしている。ただ、俺は楽譜が書けないので、コードだけを順にメモっている。因みに作詞の才能は全く無い。最近作った詩は「風がオレを呼んでいる―wow wow」こんな感じだ。
食事は自炊らしい事はたまにするが、基本コンビニだ。―――たまにスーパーの惣菜。
土曜日の日中はライブハウスに入り浸っている。
因みに、このライブハウスは結構優良(?)なお店で、高校生は夜七時以降は店を追い出される。店のオーナー曰く「こういう店はあまり良い印象持たれないんだよ。お前らの親を安心させなきゃ、お前ら自身が音楽続けさせて貰えなくなる」だそうだ。もっともな話だが、親が不在の俺にはあまり関係のない話しだが、補導されるような事はしないようにしたい。
俺が一人暮らしをしている「訳あって」の部分だが、何のことはない、親父とお袋は「世界が俺達を呼んでいる」と言って、海外に飛び立ったのだ。そして俺は付いて行きたくないから日本に残って一人暮らしをしている。ただそれだけだ。
因みに、生活費は両親からちゃんと仕送られている。そのくらいには稼いでいるようだ。ただ、俺も自分の意思で日本に残るといった手前、仕送られた金を気軽に使うのはどうかと思って、出来るだけ自分で生活費を稼ぐような活動をしている。
そして始まった一人暮らしな訳だが、引っ越して最初に驚いたのは、隣の部屋に同じクラスで「学校一美少女」と名高い「
引っ越してすぐ挨拶に行ったら不在だったが、数日してたまたま玄関先で鉢合わせて、挨拶してみれば彼女だったってわけだ。
彼女も俺の事は知っていて、向こうも驚いていた。
その時のやりとりを振り返ればこんな感じだ。
「こんにちは。隣に引っ越してきた
「え? 御前君? 隣に引っ越してきたんですか? ちょっとビックリです」
「あ―――、突然一人暮らしする事になって……あ、ちょっと待ってて」
部屋から引っ越しの挨拶用に準備していた粗品を持ってきた。
「これ、良かったら使って」
「あ、ありがとう御座います。丁度洗剤切れかかってたんです。実は、今から買いに行こうと思っていました」
「それは良かった。それじゃ」
「これからも宜しくお願いします」
こんな感じだ。以来、彼女と会話はしたことが無い。
気になったのは、数日経っても彼女の親らしい影が一切見えないでいた事だ。最寄りのスーパーなんかでもたまに彼女を見かけるのだが、やはりいつも一人だ。
結果、一人暮らしをしているという結論に至った。当然、本人に確認は取っていない。
そもそも、俺は学校ではボッチだ。彼女と学校で話した事は……俺が日直の時に「ノート出して」と言うか、彼女が日直の時に「ノート出して」と言われるかくらいの会話しかした事が無い。
マンションの通路ですれ違う時は一応、「うす」と小声で挨拶はする。あっちは元気ハツラツ「こんにちは」「おはよう御座います」と挨拶してくる。元気の押し売りっぽい感じもするのだが、声は凄く澄んでて綺麗で耳に心地良いトーンだ。あの声はちょっと好きだな。
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———いつもの土曜日が来た。
ライブハウスは九時にはオーナーが店を開ける。その時間を狙っていつも一番に店に入る。
「おはよう御座います。今日も宜しくお願いします」
「おはよう。今日もいつものように宜しく頼むよ」
俺はいつものようにスタッフとしてステージのセッティングやら音響やらを準備する。
一応、アルバイトって立場になっている。
当然、夜七時を過ぎれば店を追い出されるのだが、バイトでありながら、帰る時間はフリーにさせて貰っている。フリーと言いながら七時前に帰った事は一回しか無いんだけどな。
因みに演奏時間以外は時給制で給料が支払われている。
店のオーナーと俺の親父は友人だ。なのでそんな甘い扱いをさせて貰っているわけだ。
今日は、この前助っ人した「ハイスペックス」がくる日だ。
初めて俺からメンバー加入の申し出をする訳だが、なんかドキドキする。
最初のバンドのライブが始まった。
目当てのハイスペックスは、午後三時の出演だ。
今は、午前十時。まだまだ時間は早い。
多分、二時頃には来るだろう。加入出来たとして、今日の今日ですぐ共演する事は難しいと思うが……。
因みに、俺は楽曲は一回聴けば覚える。
それに一曲に使われるコードの数とパターンは大体決まっているから、そのコードだけのメモを貰えば誰でもソコソコやれるもんだ。
世界的に有名なロックバンドなんかでも、メンバー全員楽譜が読めないなんて話もざらだし、ソロパートなんて、演奏する度に音が違ったり……寧ろ、毎回同じに弾く日本人が異常だって話も聞くくらいだ。
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「———ちわーっす」
ハイスペックスのメンバーの一人が来た。確かリーダーの
「こんにちは」
「あ、トゥエルブ。この前は有難う。凄く楽しかったよ。また空きがあったらお願いしたいんだけどいいかな?」
「その事で話が有るんだけど……」
「———どうした?モジモジして」
俺は一回大きく深呼吸した。
「まだギターが決まって無いなら、俺をハイスペックスのメンバーに入れてくれないか?」
「は? なんだって? 今、『俺たちのバンドに入りたい』って言ったのか?」
小堀がそう言うと同時に小堀の後ろから声がした。
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