正体を隠して生活してる俺の隣に住んでる美少女とカラオケ行ったらとんでも無い才能の持ち主だったからバンドのボーカルに誘った。

にもの

第1話 追放

 学校の中では誰とも関わらなかった俺だったが、一人の女の子がキッカケで、取り巻く世界がガラッと変わった。世界が変わったと言っても、今流行りの異世界転生とかでは無い。


 ギター命でライブハウスに通い、学校内では誰とも話をしない「King of ボッチ」のこの俺が、「学校一の美少女」と呼ばれている子と一緒にバンドを組むなんて誰が想像できる?


 今から語る話は典型的な「身バレに気をつけろ系ブコメディー」だ。


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 ―――俺の名前は「御前正吾みさきしょうご」。ギターが好きで、家では暇さえあればギターを弾いている。


 親がバンド(素人)やってた影響100%で、幼い頃からギターを弾き、高校一年からライブハウスに毎週のように顔を出しては、たまにバンドの助っ人としてステージに立たせて貰っている。


 ライブハウスでは顔は丸出しだが、身バレしたく無いので「トゥエルブ」って名乗っている。

 逆に学校では前髪で顔を隠している。さっきも言ったが「ボッチ」だ。

 なので「御前=トゥエルブ」とは誰も思っていない。

 因みにライブハウスの中では、カチューシャで前髪を上げている。

 

「トゥエルブ」という名前、自分で名乗ってなんなんだが、今思うと微妙なセンスだ。黒歴史になっているのでその辺は弄らないで欲しい。


 そして最近では、俺が助っ人したバンドの動画を、動画投稿サイト「MY TUBE」にアップしている。


 結構、評判がいいらしく、フォローワー数は一万を超え、全動画の再生回数も、お蔭様でかなりの数字になっている。


 

 ———高校一年、季節が秋になりかけている頃、俺の動画がLa・INで拡散されているようだ。非常に有難い限りである。最近、教室ではその動画が話題になっているのをよく耳にする。


「———このトゥエルブって奴、ギター半端ねえな」

「見た感じ、俺らと歳、変わんねえよな」

「あー……ダメじゃんコイツ」

「あ? 何がダメなんだよ!」

「ギターのせいでボーカル死んでる」

「———マジだ。歌が頭に……いや、耳に入ってこねえな」

「コイツ、このままだと多分バンド組めねえよ」

「ボーカル殺しだな」

「カッコいいな。『ボーカル殺しのトゥエルブ』」


 ———うーん、なんて的確な評論だろうか。そうなのである。俺のギターの音に惚れられてバンドに誘われるんだが、どのバンドも三回目のステージで俺を追放するのだ。追放と言っても異世界物の話じゃないぞ。


 追放の時、そのバンドのボーカルが決まって言う台詞が、「俺が目立ってねえ!」だ。知らんがな!


 なので三組目のバンドを追放されて以来、俺は敢えて「助っ人」ってスタンスで誘われたバンドに参加する。そして、参加の条件にその時のライブの動画をネットで配信する許可を貰っている。配信した時の収入も俺に全て入るようにしっかり書面で契約している。


 俺は普段、教室では机に伏せて寝たふりをしている。すると、周りから色々な話が聞こえてくる。

 

「希乃さんって……バンドやってるんですか?」


 俺の後ろで女子が小さな声で話しかけているのが聞こえた。

 話しかけられた方は、話しかけた奴を連れて廊下に出て行ったようだ。


 ―――希乃さん……「希乃陽葵ののひまり」。

 最近助っ人したバンドのキーボードだったな。


 俺は、助っ人で関わったバンドのメンバーの名前なんて覚えない。いや、覚えられない。

 だけど、希乃さんが所属するあのバンドのメンバーは、全員、名前を覚えている。何でかって? すげえ上手かった。全員がすげえ上手かった―――ボーカルを除いて。


 以前から評判は良く、俺自身、一緒に弾いてみたいと思っていたバンドだ。ただ聴くのと一緒に弾くのとでは、いい意味で段チの差があった。

 

 まず、ドラムだ。フィーリングがどのバンドよりもよかった。一言で言うと、メトロノームより正確なリズム感。ぶれない音質。何より驚いたのは、バスドラを足で叩いている時、上半身は水を飲むとか、鼻くそをほじるとか、リズムとは関係の無い、全く別の事をやっているのに、足からは全くブレの無い淀みの無いリズムが延々と生み出されていた。そんな奴、俺は今まで見たことが無い。


 そしてベース。あの音は、だぞ。渋かった。指引きでの音もブレが無く、スラップチョッパーは張りがあって申し分無しだ。驚いたのは、同じ音……単音かつ8エイトビートで5分以上鳴らし続けた事だ。ここで表現するなら、「ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・ボ・……」こんな感じだ。目の前の机でいいから、5分間、人差し指で叩き続けてみれば、この難しさが良く分る。絶対リズムが狂うか音の強弱がぶれる。


 そもそも、そんな曲を作曲する奴の気が知れんが、多分、こいつの実力を知っての曲なんだろう。


 で、希乃さんだ。


 聞いた話、彼女は小さい頃からピアノをやっていて、中学生の頃、国内の結構有名なピアノコンクールで優勝した実力者らしい。いいのか? バンドなんかやってて。そう思って聞いてみれば「色んな音楽に触れなさい」という親の教えらしい。なんて素晴らしい親だ。


 希乃さんは未だ現役でピアニストらしいので、バンドと掛け持ちは凄い事だと思う。ただ、ピアノとキーボードって弾き方……鍵盤の叩き方が違うから、ピアノに悪い影響があるんじゃ無いかってちょっと心配だ。

 

 この三人は、同じ歳だって情報は得ていたが、助っ人明けの月曜日、同じクラスに希乃さんが居たのに気が付いた時はビックリしたもんだ。ライブハウスと様相は違うし、学校では皆「希乃さん」って呼んでて、店では「陽葵」だったから全然気が付かなかった。


 そして、残念たっだのはボーカルだ。


 正直、始めて俺がボーカルだ。俺が駄目にする前に既に他の三人に駄目にされていた。それでも歌っていたのは、自分と周りの実力の差が分っていないのか、ハートが強いのか……。


 始めてだな。俺の方から組んでみたいって思ったバンドは。


 因みに、このメンバー達、希乃さん以外の二人も同じ高校だったのだが、俺の正体は全然知らないのであしからず。



———


ヒロイン視点。こっちの小説も読んで。


『全然バンドとか興味無いのに正体隠して生活してる隣の部屋のギタリストとカラオケ行ったらバンドのボーカルに誘われて私まで正体隠すようになった。』


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