家族

吾輩

一番最初に出逢う”社会”

 これは、私の人生に少しの粉飾を加えた自叙伝です。"人生"というものは、それを生きている本人にしか体験することができません。私があなたの人生を体験することも、あなたが私の人生を体験することもできません。「これは1つの物語だ」と思って読んでいってください。



 平成14年1月16日午後4時30分頃、埼玉にある病院で私は産まれました。予定日を10日も遅刻して産まれてきたその赤子は金城 幸太きんじょう こうたと名付けられました。色がとても白い男の子で、黄疸で1日入院しましたが五体満足で元気な赤ん坊でした。柔らかなタオルが好きで、お気に入りのものを見つけては肌身離さず持っていたそうです。母は心臓が悪く薬を多く飲んでいたので、これ以上の出産は危険と判断され、私は1人っ子として育てられていきます。

 幼稚園に入園すると、幼馴染の女の子と小さな神社でおままごとをして将来の結婚を誓い合ったり、父が扮したサンタクロースからプレゼントを貰って大喜びしたりと、いたって普通の幼児でした。

 小学校に入学すると、周囲と上手く馴染む事ができず友達は殆どいませんでした。挨拶のつもりでクラスメイトを突き飛ばし、怪我を負わせて両親にこっぴどく叱られたのを今でも鮮明に覚えています。

 4年生になった頃、父が病気に罹りました。"1型糖尿病"という、現在の医療では治療が不可能な不治の病です。それによって父は仕事が変わって収入が減り、毎月の医療費で出費も増えたため母も仕事を始めるなど、私の家庭環境は大きく変わりました。

 5年生になった頃、"K"という女の子に生まれて初めて恋をしました。Kはサイドテールがよく似合う華奢な女の子でした。私は少しでもKの気を引こうと、彼女が困っていれば率先して助けてみたり、帰りの支度を手伝ってみたりと一生懸命にアプローチしていました。また、母がプロレスに熱中し始め一緒に試合を観に行ったりもしていました。母は私が産まれる前からプロレス観戦が好きだったらしく、昔は父とプロレスの話題でよく盛り上がっていたらしいです。近所のショッピングモールで開催されていたプロレスラーのトークイベントに参加した時のこと。イベントの最後におこなわれた、選手のサイン入りポスターを懸けたじゃんけん大会で私が優勝し、ポスターを手に入れたのがきっかけで再びプロレスに熱中するようになったそうです。

 6年生になった頃、私は"友達が欲しい"という気持ちから両親の財布に入っていた5万円を抜き取りました。クラスメイトが欲しがっているものを買ってあげたり、自分が欲しいものを際限なく買ったりしました。結果として残ったのは、金で買った希薄な友情と両親からの折檻で出来た大きな痣だけでした。他にも、少しでも気に入らないことがあると癇癪を起こしたり、クラスメイトに暴力を振るったりもしました。そのたびに父から「自分の感情をコントロールしろ」と𠮟責されました。

 中学校に進学すると、部活動で剣道を始めました。漫画に影響されて始めた剣道ですが、私はそれがとても楽しく仲間と共に日々の稽古に励んでいました。土日の遠征や先輩との雑談など、小学校では体験できなかった日常に胸を躍らせていました。Kへの想いは途絶えておらず、成長していく彼女に私はますます心酔していきました。3年生に進級してすぐの頃、私はついにKに想いを伝えることを決心しました―


「雨降んなくてよかったね。」

「うん、そうだね。」

曇り空の下、私とKは傘を持ちながら帰路についていた。

彼女が部活動の大会で公欠したとき、授業の内容や連絡を電話で伝えた際に『明日学校に来たら、一緒に帰らないか?伝えたいことがある。』と、私は約束を取り付けたのだ。

「歩くの早くない?大丈夫?」

私がKに問いかける。

「大丈夫だよ。」

緊張しているのか、受け答えに少し違和感を感じた。

無理もないだろう。電話で男子に『話がある』と呼び出され、共に帰路についているのだから。

「話ってなに?」

Kが不安気に聞いてくる。

「もう少し待ってね。」

告白する場所を決めていたので私はそう答えた。


―目的の場所に到着した。私は今からここでKに告白する。

1週間も前から用意していた台詞を思い出しながらゆっくりと口を開く。

「俺、アイドルとか芸能人みたいに格好良くないけど、Kさんを想う気持ちは誰にも負けない。」

心臓の鼓動が早くなっていく。

顔が熱くなっていく。

周囲の音が少しずつ聞こえなくなっていく。

今までに体験したことの無い緊張に押し潰されそうになりながら、私は震える唇を開く。―次が最後の台詞だ。

「Kさん、あなたのことが大好きです。俺と付き合って下さい。」

少しの沈黙の後、Kが口を開いた。

「ありがとう。でもごめん...私、誰とも付き合う気は無いんだ。」


―散った。私の5年間に及ぶ初恋は、片思いという形で散っていった。

もう何も考えられなかった。生きる意味を無くした気分だった。

フラフラとした足取りで、私は自宅に向かって歩く。

「もう何でもいい...。何でもいいから、俺の心の穴を埋めてくれ。」

薄暗い部屋の中、床に座り込んだ私はそう呟いた。

もう何もする気が起きなかった。

いかに彼女が私の中で大きな存在だったのかを思い知る。

齢14にして初めて経験した失恋は、涙の味がした―。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る