第9話
後ろから、数えきれないほどのビームが飛んでくる。昨日の霊獣と同じで、こいつも一撃で仕留める気はないみたい。俺にあたるすれすれで外してきて、あたふたする俺の反応を観察して楽しんでるみたいだ。
「うわっ! 」
俺がこう悲鳴を上げると、彼は笑った。
けど、いつまでもそんな茶番続かなくて、何回目かわからないくらいで、俺は逃げてる途中に足を滑らせて転んでしまった。それを見ると、ムササビ型の霊獣は突然表情を変えて、口を開けた。おそらく、食べるつもりだ。
「まずい……」
俺は縮こまって、体を伏せた。けどそこで俺は、自分の注意をそらすものに出会った。
地面に赤いお札が貼ってあるのが見えた。月の模様が繊細に描かれた、謎のお札。
このとき、時間が止まったような感覚になった。
後ろから物凄いスピードで脅威が迫ってきてるというのに、その瞬間、俺はそのお札にどこか魅了されていたんだ……
「何!? う、うわあぁぁああ! 」
突然、後ろのほうから叫び声が聞こえた。あのムササビ型の霊獣の声だ。殺されかけてたのは俺なのに、彼の断末魔が洞窟みたいな霊界に響いたんだ。
俺は恐る恐る、顔を上げてみた。そして霊獣のほうを見てみると、お腹を上に向けて倒れていた。その体はもう息はしていなくて、表情も、驚いている感じで止まっていた。
「これは……」
視界に違和感を感じて見回してみると、時空がゆがんでるみたいになっていた。そこにはバリアーみたいなのが俺を包み込んでいて、霊獣がはじき返された形跡があった。
俺は守られたのか。
そう思って、俺は自然に地面のほうを見た。すると、さっきの赤いお札があって幻想的な雰囲気を演出していた。直感的に、このお札が守ってくれたのかもしれない、と思える。
「変える方法を探さなきゃ」
俺はそのお札を手に持って、霊界の奥へまた歩き始めた。何か、導かれるような、無意識に吸い寄せられてるような感じで。
「えーい! えーい! 」
しばらく歩いていると、前のほうからお祭り騒ぎしてるような音が聞こえてきた。その方向の先には、何やらこの暗い霊界の中で唯一、明かりがある場所がある気がする。
さらに近づいて、それが一つの商店街だということが分かってきた。それも夏祭りみたいなノリで、太鼓をたたいたり、笛を吹いたりしてる。
屋台が奥行きが見えないほど縦に二列に並んでいて、その真ん中に通路があり、人々が歩いてる影が見えた。霊界にも人間がいるのかな?
だったら、出る方法を聞けるかも。
「いってみよう」
そう呟いて、俺は歩いて行った。
けど、遠目から見たら俺と同じ人間がたくさんいるように感じたけど、実際近くまで来たら、全然違った……
商店街の門の前に立つと、人のように見えた影は実は何倍にもでかくて、三メートルくらいあった。屋台も多分六メートルくらいあって、まさに霊獣のための町だった。もちろん、人間なんていない。
で、俺は今凄い状況になってる。つい早く帰りたいという気持ちが先行して、商店街の門まで何も考えず走り抜けたものだから、それに気づいた霊獣たちに、囲まれてしまった。
現在、俺の周りには巨大な化け物が普通に浴衣を着て、何体もいるそれに見下ろされているという変なシチュエーション。
「人間……」
一体の霊獣がこう言った。
そして、何をされるかと思ったら、ことはさらに意味わからない方向に進み始めた。
「かんぱーい! 」
酔っぱらったじいさんのごとく顔を真っ赤にした霊獣が、屋台の席でビール? を掲げてこう言った。その掛け声に合わせて、他の霊獣たちも騒いだ。
俺はなぜか、彼らの飲み会に参加させられてしまった。
「おい、人間、どうやって来た? 」
隣に座っている四メートルくらいの霊獣がこう言った。彼はこの中では唯一服を着てなくて、俺の知ってる霊獣という感じだった。でも、あまりにもフレンドリーすぎて、ちょっと気持ち悪さもある。
「ゆ、誘拐されたんです。餌として」
「ほお! 下級の者どもに目をつけられたのだな」
「下級? 」
「ああ。わてら、この町に住んでるような上流階級は、わざわざ人間を食いに行くなんて手間のかかることはしない」
「な、なるほど」
「そういや、最近はようけ下級の者共が人間界で暴れまわってるというのを聞くのじゃが、それは本当か? 」
「わかりませんけど、俺は、呪われて、二回襲われました」
「呪い? なんじゃそれ? 」
「へ? 」
「う~む。なんだか厄介なことになってるようやな。めんど――」
そこまで言ったとき、フレンドリーな霊獣は突然話を止めて、どこかを見始めた。俺も同じ方向を振り向いてみると、この屋台の真ん中で(この屋台はカウンター席が円状に並べられている)何やら二体の霊獣が体を寄せ合っていた。
カウンター席からは、「ひゅ~ひゅ~」みたいな掛け声が聞こえてくる。
「何が始まるんですか? 」
俺はフレンドリーな霊獣に聞いた。
「ああ、今からなあ、恋の儀式が始まるんや。なんたってわてら霊獣は恋のエネルギーを常に蓄えることによって生きられるからな。恋は霊獣にとって一番大事なんや」
あの二体の霊獣が雄雌というのが驚きだけど(本当に見分けがつかない)、そんな生物なのか、霊獣って。
恋、が大事なんだ。
で、その儀式が終わって、俺は霊獣たちに帰る方法を教えてもらった。「この商店街を出て、神様が祭られてる場所に行けば戻れる。念のため、お札を帰った後も身につけておくといい。下級レベルの霊獣ならよりつけんだろう」
だって。
親切な霊獣たちのおかげで、俺は下級の霊獣から襲われることなく、その場所までこれた。お札がたくさん貼ってあって、真ん中に神様がまつられてる。
ここで帰りたいと祈れば、帰れるらしい。
俺は手を合わせて祈ろうとしたけど、またここで、後ろからなんか声が聞こえてきた。嫌な気はしたけど、その声は俺のきいたことのある声だった。
「おい! たける! いる!? 」
桜様の声だ。ここまで探しに来てくれたのか? いや、待って。なんで彼女がここに来れるの?
いろいろ考えていると、桜様が俺を見つけて、こっちに来た。でも、来たのは彼女だけじゃなかった。桜様の後ろには、誰か知らない人がいた。なんか、勇者みたいな格好をしてる。
「あの……」
「ああ、君がたけるか。僕は、みさきの兄だ」
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