野薔薇ローズの冒険

@minoru514

第1話

 私の名前は野薔薇ローズ。

 年始の今、本国はとんでもない大寒波が襲い、クソ寒いですわ。とてもやってられませんわ。という事で、執事の提案で、我が野薔薇家のゴージャス壁に南国の島国をピックアップして、ダーツで行き先を決める事にしましたのですわ。

「ローズお嬢様、こちらに」

「ありがとうですわ。」

 彼は私の執事のセバスチャン、ちょっと抜けてる所があったり、身長差が激しすぎて話が出来なかったりするけど、頼れる執事ですわ。A5ランク執事ですわ、ランクの見方はお肉と同じですわ!年始から全日本執事会から派遣されてきましたのですわ。彼からダーツを受け取って、手首のスナップを利かせて投げますわ。

「えいっ!ですわ!」

「ローズお嬢様お見事です!」

 少し掌をずらしてパチパチと拍手するセバスチャン、優雅ですわ、それでこそ野薔薇家の執事ですわ。鼻息も荒く確認すると、私が投げたダーツは小さな島に突き刺さっていましたの。

「決まりましたわ!この島に行きましょう!ですわ!」

「南国トロピカル因習島アイランド…聞いたことが無い島ですね…?」

 これでクソ寒い本州ともお別れですわ、自家用ジェットでひとっ飛びですわ。え、飛行場が無い?仕方ないですわね、行き方はセバスチャンに任せますわ。そのための執事ですものね。何々…?最も近くの飛行場のある島から船で半日の距離ですって。そういった船旅で田舎に行くのも悪くないですわね。


 旅行の極意はどれだけ身軽にフッ軽で行けるかですわ。着替えは仕方ないとして、水着と、傘と、虫よけ、ハンカチ、チリ紙、ティーセット、護身用のバトルアックスのピンクのリボンが映えますわ。荷物を自家用ジェットに積み込み、お屋敷を後にしますわ。

「ローズお嬢様お気をつけて」

 寒さでモコモコになったメイド長の五十嵐明いがらし めいとメイド達から見送られ、一路空路ですわ。ふふ、どんな旅になるのか楽しみですわ。

赤い絨毯とソファ、空調の効いた自家用ジェットの中、セバスチャンに紅茶を入れられ、優雅な空のティータイムですわ。


 程なくして、最南端にほど近いトロピカル因習島アイランドの隣の島に不時着しましたわ、アイアンメイデンサイズのトランクケースを持ったセバスチャンを従え悠々と自家用ジェット機から出ますわ。やはりトランクケースは一つに集約するべきですわ。黒塗りのベンツで船着き場に移動して、全長30メートル程の小型の船に乗り込みますわ。


 既に温度は30度近くを示し、常夏に浮かれたぱーてぃぴーぽー達が水着に着替え、そこかしこで音楽に乗って歌い踊り狂ってますわ。ごきげんようですわ。トンチキ騒ぎの中、5人組の目を引くグループがいますわ。

「リョウ!私、やっぱりあなたの事が好きなの!」

 黒髪ロングに白いドレスの清楚な女性が、背の高いいかにも好青年な長身の男性に声を掛けてますわ、いきなり告白とはやりますわね。お嬢様ポイント高めですわ、負けませんわ!

「俺にはマリが居るんだ、カオルの気持ちには応えられない」

 おーっと、いきなりフラれてますわ、彼女持ちに告白するなんてカオルさん命知らずですわ。

「おい、リョウそんな言い方はないだろ?!だいたいマリはもう…」

 派手な花柄のシャツを着たぱーてぃぴーぽーの男性がリョウと呼ばれた方に突っかかってますわ、そのシャツはどこで売ってますの?

「いいの!ダイ!私の勝手な思い込みなのよ…」

カオルさんの目には涙がキラリと光る。

「カオル…クソッ!リョウこのやろう!」

 ダイさんがリョウさんに殴りかかってますわ、女を巡る男の喧嘩ですわ、江戸の喧嘩は町の花ですわ!最高の酒の肴ですわ~!良いパンチですわ!そこだ!やっておしまいなさい!

「何やってるんですか!やめてください!こんなところまできて!」

「離せ!デンタ!あいつぶん殴ってやんねえと気が済まねえ!」

 デンタと呼ばれた眼鏡の小太りの男性が止めに入りましたわ、チッですわ。なかなかの見世物でしたわ。この船の演劇の方かしら?やはり船旅はこれくらい刺激的な事がある方が退屈しないで済みますわ。

「ローズお嬢様ワインはほどほどに、酔いますよ」

「だまらっしゃい!セバスチャン!この程度で野薔薇ローズは酔いませんわ、このチーズ美味しいですわパクパクですわ~」

「はぁ…」


一時間後…。


 私のドレスは真っ赤に染まっていましたわ…。

「はあ、はあ、ああうぇッ」

 キラキラの加工済吐しゃ物が船の手すりに抱き着いた私の口から流れ出てますわ、チーズの味がしますわ。やはり船は良く揺れますわ、もはや酒なのか、船酔いなのか、判りませんわ。白いドレスがチーズ入りワインで真っ赤ですわ。

「セバスチャン船酔いの薬と酒酔いの薬を用意ひてちょうらい…」

「だから言ったのに、あ、もうすぐ島に着きますよ」

「あれが…南国トロピカル因習島アイランド…」

 真っ赤な血のように赤い夕暮れに染まり、真っ黒な影として、その島は姿を現しましたわ…。


「まあ、素敵な島ね、私が泊まるのは、どのリゾートホテルかしら…?ここからでは見えないわね?」

 ハンカチで口を押えつつ、島を見回すと、建物らしきものや文明の光らしきものは無く、真っ黒な島の上空を沢山の鳥がギャアギャアと鳴きながら旋回している、おもってたんとちがう。


「アラッ?ちょっと、セバスチャン?あの島、大丈夫なの?」

「ここからでは明かりが見えませんが、島一番の素敵な民宿『居座り』に予約してあります。他に泊まれる所がなさそうだったので…多分大丈夫です」

「セバスチャン、もう一度聞くけど、あの島、大丈夫なの?」

「私が付いております。ローズお嬢様お気を確かに」


 船酔いと酒酔いで、ぐるぐる目のまま船着き場に着きましたわ、お嬢様たるもの、この程度でへこたれませんわ。

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