"例えば午後の日差しを含ませた綿雲から紡いだ刺繍糸を使います。それから、北国のオーロラから切り出した紗布。彗星を砕いてつくったビーズ……我が商会もかろうじて少量押さえておりますが、どなたも欲しがる一級品ですから"
銀糸のような髪に菫色の瞳、たおやかで美しいのに微笑むといやに迫力のある湖の屋敷の主ユーウェルに、上記のような調子のいい口上で、特別に翅をあつらえると約束して前金がわりの宝石を受け取った詐欺師のルイスは謎の頭痛に悩まされることに。
何とユーウェルは、彼が住む国に伝わる妖精の女王と失踪した王子との間に生まれた娘だというのです。とある事情で、その身を飾る彼女の本物の翅に見劣りしない飾り翅を求めていると言うのですが——?
とにかくユーウェル自身とその妖精の翅がまるで目の前にあるかのように伝わってくるその美しさ! 最初は反発していたルイスですが、生来お人好しなタイプらしく、彼女の事情を聞くや、結局なんのかんのとぶつくさい言いながらもその願いを叶えるために本気で奔走し始めます。
彼が彼女のために見出したもの、そして、ラスト近くの湖から妖精の国へと続く階段のシーンがとにかく美しくて印象的でした。
引っ掛けたつもりが完全に振り回されてしまうお人好しな詐欺師と、彼を楽しげに見守る妖精姫とその侍女。楽しくも美しい不思議な世界をじっくりたっぷり堪能できる物語。
またいつか彼らのお話を読んでみたいな、と思えるそんな素敵な短編でした。
ファンタジー好きな方にとってもおすすめです!