太陽の塔
龍羽
遺跡塔
ある栄えた都市の真ん中に
天を衝くような塔の遺跡は存在した。
国定禁足地『遺跡塔』:敷地内。
「あの……やっぱり やめません?」
気の弱そうな糸目の青年は、前を行く6人の男たちに勇敢にも声をかけた。
ギラリと振り返った一団は、木々の新緑と瓦礫の白亜が織りなす静謐で美しい景観の黒炭のよう——— 一目で堅気の人間でない事が窺える。
その気迫に一瞬怯んだようにも見えた青年は、両手首を縛られてしまった状況でもなお言葉を重ねた。
「あっ あなた達外の国から来たって言ってたでしょう? だから知らないんです。ここがどんな恐ろしい———」
言い終わる前に沸き起こる 一団の下卑た含み嗤い。清浄な空気を汚染するようだ。青年は肚の内で嫌悪した。
「知ってるぜぇ?アレだろ『この塔は命を喰う』。お国の大事な大事なお遺跡様にゃあ付きモンの、こわ〜いお話ってやつだ」
一人が嘲笑いながら青年に近寄った。
「でもオメェだって気になってたろ、この国のド真ん中に聳える塔の中をよォ」
「『もし中の様子が見られたら、特大のネタになるのにぃぃ』ってな」
ゲラゲラと笑い出す男達に、青年は縛られた両手首で顔を覆った。
「うっ そ、それは酔っ払ってたから———オボエテマセン……」
昨夜口走った言葉を酒のせいにして俯くしかなかったと。すっかり萎縮した様子に男達は気を良くしてさらに言い募る。
「だぁあから連れてきてやったんだぜぇ。むしろ感謝してくれねぇとなぁ?」
「そうそう!俺たちの捨て駒としてなぁ!」
「オメェだって期待してんじゃねえのか?ずいぶんご立派なおベスト様よなぁ〜?」
まるで罪悪感を擦りつけるような有様だ。服装のことまで突かれて。確かに青年は動きやすそうでポケットも充実したカーゴパンツにベスト、Tシャツ姿。ブーツも使い込まれている———この男達に『仲間です』とシラを切られてしまえば、此方の言い分を信じてもらえるか怪しい格好だ。
「そろそろ静かにしねぇか、野郎ども」
大柄で髭面の大男の静かな声で、場に緊張が奔る。他の男たちと同じ格好のサバイバル迷彩に身を包みながら、他の5人とは貫禄が違う———この男こそ この集団のボス。
「見ろ。何度見ても胸糞悪い警備兵どもだ」
そう親指でぞんざいに差した先には、フェンスの入り口に立つ十数名の武装兵達の姿があった。
「警備兵じゃない、守護者です!あの方達は由緒ある遺跡塔の護り手で———」
「ハッ! 俺らにとっちゃ一緒よ」
そう言って銃を持ち直し、そして部下の一人に「黙らせろ」と命令すると、
ボスは部下たちを見回した。
「やるぞ、俺たちは。
昨今隣国が『遺跡塔』の遺物を狙って盗掘を試みている。
そんな噂が後を経たなくて、外の国から来たと言う観光客に取材中だった。
何せ『塔』はこの国に恩恵を与えるもの。太古の遺跡と謳ってはいるが、現代では考えられない超文明の遺産だ。
この国の総ては観光はもちろん、経済、宗教———技術までもがあの『塔』によって成り立っている。
そんなこの国を、外の国はどう見ているのか。客観的な視点の取材だった。
それがまさかの盗掘犯ご本人様。
地元の者しか知らない穴場へ案内しようとして———ご覧の有り様だ。
こいつらも末端とはいえその組織の一員なのだろう。
覚悟を極めるしか無い。
耳鳴りがする。
モーター音の幻聴まで聞こえてきた。
いや違う———本物のモーター音……?
茂みが一際大きく揺れ、何か大きなモノが飛び出してくる。
バイクだ。
しかも
それに華奢な女性が跨っている。
その傍らをやけに大きなイヌが疾る。
「!!?」
ここに人がいるとは予想外だったのか、一度は逸らした進路を再び遺跡の入り口へ向けた。
ブゥウン と唸るエンジン音。
突っ込む気だ。
青年は直感した。
「退いてくださぁあああい!!」
ヘルメットのせいでくぐもった声。
千載一遇とバイクの後部に掴まる青年。
そんな騒ぎを守護者が見逃す訳もなく。
「貴様ら!?」
すでに近づいて来ていた数名を横切り、銃撃をかわし、イヌが翻弄して。フェンスの護りを突破し瓦礫の奥———即ち遺跡塔内へ進入した。
残された盗賊どもは堪ったものではない。
「さっきの奴の仲間だな!?———捕まえろ!」
男たちはパニックになった。
逃げる者。
銃とナイフで応戦する者。
捕まる者。
その散々な有様にボスは怒りでワナワナと震えた。
「あの
☀︎ ☀︎ ☀︎
「助けていただいてありがとうございました」
縄を解いてもらった青年がまず行ったのは、口のテープをバリバリと剥がして女性にお礼を言う事だった。少し勢い良すぎたのか、彼の口元は若干赤い。
その様子を微笑ましく見るのは、肩より上で大体切り揃えた茶髪の女性。五分丈程の白衣の下のふんわりとしたキャミソールにデニムのショートパンツと言った出立ちは、胸の膨らみにさえ目を瞑れば状況も相まって女神に見える。まるで
「成り行きです。大変な目に遭われましたね———お怪我はありませんか?」
「はいっ 大丈夫です! ホントどうなる事かと———あっふ 僕はベン・アイザス。フリーの記者やってます。貴女は?」
「……レイ・グレン」
「えっ『レイ・グレン』? あの……?」
糸目の青年ことベンは、ポカンと自分よりも頭ひとつ小さな女性の顔を見たままフリーズした。
コテンと首を傾げたレイの「なにか?」の声で我に帰ったように再起動した彼は「何かじゃないですよ!」と、爛々と目を輝かせて彼女に詰め寄っていった。
「10年前に事故死した考古学の権威、デール・グレン博士とその妻にして光学機械技師、発明家エルジア・グレンの一人娘———レイ・グレン! 飛び級で10代の内に母親と同じ光学機械を極めるも、その後転向して父と同じ考古学の道に入った正真正銘の超天才!なのに2年前に表舞台から一切姿を消してしまって———」
クスクスと笑う少女の声が遺跡内に木霊する。
「お詳しいんですね」
「考古学マニアで貴女の名を知らない人はいませんよ!———あっ しかもそのイヌ『アニマクス』じゃないですか!?」
「ふふふ。イヌではなくオオカミなんですけれどね」
レイは傍で大人しくしているイヌことオオカミの頭を撫でた。その毛並みは壁の隙間から差し込んだ太陽光に照らされ、光を浴びる部分だけが黒くキラキラと反射している。
旧姓エルジア・クーの最初にして最高の発明———太陽光ファイバー。
僅か0.1mmの極細繊維状の太陽光集積発電システムだ。レイは、その技術を駆使した発電機本体の最適化と小型化に成功。ロボットの動力源とした画期的な発明だった。
「凄い! お母様の技術を実用段階に引き上げられたって言う伝説の初号機が目の前に———アレでも」
「ではご機嫌よう」
わふ
スタスタと遺跡の奥へと足を向けて行ってしまった。
「ちょちょぉ まっ……!?」
慌てて後を追いかけるベン。その様子にレイは軽く首を傾げるばかりで不思議そうだ。
「アラ 危ないですよ。ここならまだ出口も近いですし、引き返すなら今です」
「そりゃ貴女だって……! 今ならまだあのテロリストのせいにできます。引き返しましょう!———追われて仕方なく逃げ込んだのなら厳重注意で済む筈です」
そうやって説得した彼女は「うーん……」と眉尻をハの字に下げて唸るばかりだった。
「……何ですか。その煮え切らない感じは」
ベンは耐えかねて口を尖らせた。
遺跡に入り込んでしまった後ろめたさから、守護者に捕まる事を恐れて戻りたくないのかと思っていたのに。彼女の中では違うのか?
「そう言う意味じゃなかったんですけどね?」
「じゃどう言う意味です?」
「私と一緒にいると———アラ」
レイの視線を追ってベンもそちらを見た。
小さな女の子がそこにいた。
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