第8話 隠された悪意


俺が目を覚ますと同級生のみんなは既に一か所に集まっていた。


神界?から異世界ブリエールに来たという事か。


周りを見ると、明かに中世の騎士の様な恰好をした化け物の様に悍ましい人物がいて、その先には恐ろしく醜い化け物の様な少女と多分王冠を被っているから王様なのだろう、偉そうな同じく悍ましく醜い人物が椅子に座っていた。


「最後の一人が目覚めたようです」


騎士の報告を受け、王の前にいた王女がこちらの方に歩いてきた。


「ようこそ、勇者、英雄の皆さん、私はこの国エルドランの王女マリンと申します、後ろ座っておられるのが国王エルド12世です」


恐らくはこの国が俺達を召喚した国なのだろう。


これから重要な話が始まるからだろうか…皆は黙って話を聞いている。


「この世界は、皆さんが居た世界と大きく違います。この世界には魔王、魔族、魔物が居る世界で、人は常に危険に晒されています…特に魔王の力は強力で我々には対抗手段はありません。そこで、世界を救う為に古の召喚呪文を使わせて頂きました。皆様には、この世界を救う為に力を貸して欲しいのです」


王女マリンは頭を下げた。


担任の橋本が代表で一歩前に出た。


「こちらの国の事情は神々に聞きました。そして我々が戦わなくてはならないと、この世界が困る事もです。だが私以外の者は生徒で子供だ。できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」


俺は、この世界の事情を聞いていない。


俺は『邪神側の人間』だからその辺りの説明が無かったのかも知れないな。



「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますのでご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束しますし、もしこの世界に残る事を希望する者には、地位や生活の保障もさせて頂きます」


「解りました、それなら私からは何もいう事はありません、他の皆はどうだ? 聞きたい事があったら遠慮なく聞くんだぞ」


普通じゃない。


担任の橋本は納得したみたいだが…これは『帰れる保証も無い』のに召喚呪文を使ったという事だ。


真面な考えの人間なら『送還呪文』も無い状態で召喚なんてしない。


創造神ティオスの雰囲気では『今回が初めてじゃない』様な気がする。


過去に召喚された人間が居るのに『送還呪文』が無いのなら…


帰す気が無いから研究していない。


本当はあるが、帰したくないから『送還呪文が無い』と嘘をついている。


そのどちらかの可能性が高い。


同級生が色々な事を聞いているが、どうも小説やゲームの主人公になった様な気で話している。



聞いた情報だと…ここは魔法と剣の世界、俺の世界で言うゲームやライトノベルの様な世界だった。


クラスメイトの一人寒川が質問していた。


「ですが、僕たちはただの学生です、戦い何て知りません、確かに神様から祝福を貰いましたが本当に戦えるのでしょうか?」


「大丈夫ですよ、祝福もそうですが召喚された方々は召喚された時点で体力や魔力も考えられない位強くなっています、しかも鍛えれば鍛えるほど強くなります。この中で才能のある方は恐らく1週間位で騎士よりも強くなると思いますよ」


「それなら安心です...有難うございました」


安心して良いのか?


その騎士が勝てない相手だから呼ばれたんだろ?


それにこの人数…果たして何人死ぬのか…


そうじゃ無ければこんな数を召喚する意味は無い。



「もう、聞きたい事はありませんか? それならこれから四職の方、勇者様、聖女様、賢者様、剣聖様には別にお話をさせて頂きます。他の方にはそれぞれの部屋にご案内させて頂きますのでどうぞお寛ぎ下さい。夜には歓迎の宴も用意させて頂いております。それまではゆっくりと寛いでいて下さい」


一応聞いてみるか?


「すみません、俺達は…測定みたいな事はしなくて良いんでしょうか?」


「勇者様達には水晶による測定を受けて頂きますが、その他の方は測定は行っておりません。これは神々との約束なのです。祝福は平等ではありません。神々によって力の強弱があります…大昔には全員に水晶の測定を受けて頂き、その能力により優劣をつけ待遇を変えていた時代もありましたが、『神の祝福に人間の分際で優劣をつけるなど言語道断である』という神託を受けた事により中止になりました。尤も、弱い祝福であっても、この世界ではかなりの強者には違いなく騎士より強いのでご安心ください…もう大丈夫でしょうか?」


「ありがとうございます」


語るに落ちたな…そんな昔から転移者が居て、未だに送還呪文が無いという事は…帰す気が無い。


そう言う事だ。


幾ら俺に悍ましく醜く見えても『人間』そう思っていたが、悪意があるなら別だ。


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