第36話 ナリスとユリナの別人

夢なのか、現実なのか。目の前に死んだはずのナリスがいる。


166センチと私達4人の中で一番背が高かった。しなやかなスレンダー体型。


目は切れ長で鼻梁は細く、見た目の通り気が強い姉御肌だった。


ただ、狩猟が中心の村でスキルも魔法も得られなかった。


村の人間は、子供の頃からの顔見知りばかりで問題がなかった。


が、近隣の村から「劣等人がいる村」と言う人も出てきた。


近隣の村とも繋がりは深い。


弟妹が、どこかで肩身が狭い思いをする。


そう予想したナリスは、弟妹に家を任せ、街に出てきたと言っていた。



その、死んだ彼女がここにいる。



「ナリスなの?・・・」


「え。ナリス? いや、そんな場合じゃないから!」


目の前でオークが戦闘態勢に入っている。


「ナリスになにすんの、豚が!」


私は滝の下のダンジョンで600匹を越える魔物を倒して、恐らくレベルアップしている。


オークにまっすぐ走った。レベルが上がってるにしては遅い?


まあ、いい。


棍棒で殴られても怯まず、膝蹴りをかました。そのまま殴り合い。


パチン、パチンッ。ぶももも~。


小型ドラゴンと渡り合ってきた、つもり、の右ストレート。


ほんの少しだけ、「超回復、等価交換コンボ」に助けてもらい、豚を倒した。


「つ、強い。パンチはペチペチって、情けない音しかしてないのに・・」


なぜか、クリーンヒットした豚のこん棒に、頭を砕かれない私。


なぜか、豚のみぞおちに食い込んだ私のパンチ。


それを見て、彼女は驚いている。


「ナリス! 生きてた。うえっ、ナリス、ナリス、うぅぅ」


思わず泣いた。



「ナ、ナリスって、お姉ちゃんのことですか?」


「え?」


「ナリスは姉の名前です。私の名前はターニャ」


「ナリス・・じゃない・・」


顔は、そっくり。


だけど、よく見たら背丈が私と同じくらいで、ナリスより小さい。


ダルクダンジョンで1人だけ、ナリスが死んだのを確認してなかった。


一瞬、私のように起死回生でスキルを得て帰ってきたと思った。


けど、別人だった。


「もしかして、お姉さんはモナさん、アリサさんのどちらかですか?」


「・・ちがうよ。ユリナ」


「え?」

「え?」


「あなたも、ユリナさん?」


「私、も?」


不思議な話。


2ヶ月前、ユリナを名乗る女がナリスの家を訪れた。


ナリスの父母、ターニャ、弟の前でナリスの死を告げた。


そして、ナリスが家族のために貯めていたお金を持ってきたと言った。


200万ゴールドの大金を渡されたそうだ。


さっぱり分からない。


間違いなく、私がナリスの親友のユリナだ。


「ごめん、ターニャちゃん。嫌な話だけど、聞いて。ナリスは、4人は信頼していた人間に騙されたの」


「え?」

「え?」


「もう1人のユリナさんも、同じことを言ってました・・」


偽ユリナの容姿を聞くと、身長160センチ。


茶色の胸当てに普通のブーツに鉄の剣。銀髪の色白で、少しタレ目の美女。


3度ほど村に来てお墓に参ったそうだか、美人という、ふんわりとした特徴しかない。


偽ユリナ、人当たりも良くて、ターニャとも仲良くなった。


もう3回も、この村を訪れている。


「ナリスお姉ちゃんのお墓も作ったし、2週間後にまた来るそうです」


ターニャに「ユリナ」の偽物と疑われた。


だけど、私が話すナリス、モナ、アリサの話がナリスの手紙の内容と一致。


仲間を思い出したら、泣けてきた。


泣いて、しゃべれなくなった私を見て、私も、ナリスの友達だと信用してくれた。


「私もナリスが育った村に行きたい」


「ぜひ、家にも来てください」


ナリスのお母さんは、彼女を街に出したことを悔やんでいる。


スキルなしでも、周囲の目を気にせず娘を守るべきだったと、泣いている。


「そう・・。励ましてあげたい」


泣いてくれる親が死んだ私が生き残った。心配してくれる親がいるナリスが死んでしまった。


「どうせ、もう私には親が死んでいない。ナリスに生き残って、お母さんに元気な顔を見せて欲しかった・・」


気持ちが沈んだ。


ダンジョンの中で殺伐とした感情を抱いていたときの方が、心は楽だった。



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