blue blue blue
深川我無
穴の1 穴だ
洗面所は薄緑。
チカチカとノイズの走る蛍光灯の明かりは、狭苦しい洗面所を薄緑の世界に染め上げている。エイリアンが出てきても不思議ではないような、そんな雰囲気。
そんな薄暗い蛍光灯の明かりに照らされて鏡に写った自分の姿を見ると胸に穴が空いていた。
それはソフトボールほどの大きさの青い穴。
「穴だ…」
僕は間抜けにも見たままをつぶやいた。
「まゆみちゃーん…こんなところに穴が」
歯磨き粉を口の端につけたまま、僕は洗面所から半身を突き出して、ベッドで横になっている真由美に声をかけた。
彼女は露わになった上半身を起き上がらせてこちらを見るとにっこり微笑んだ。
「前からだよ?」
そう言って真由美は再びベッドに倒れ込んだ。
僕は洗面所に引っ込むと胸に空いた穴をしげしげと眺めてみる。
なかなかに綺麗な色じゃないか。どこかの絶景にブルーホールなるものがあった気がする。自身の胸に空いた穴を、恐れ多くも世界の絶景に重ね合わせると少しだけ誇らしいような気がしなくもない。
恐る恐る穴に触れようと指を近づけた。
「ねえ」
僕はビクッと身体を震わせて鏡に映る真由美に目をやった。
「するの? しないの?」
彼女は妖しく目を細めて僕を挑発する。
「あ、はい。す、するよ」
僕はそう言うと急いで口を濯いで彼女のあとを追った。
洗面所から出る間際にもう一度だけ胸に空いた穴に目をやった。
そこにはやはり、ソフトボールほどの大きさの、青くて丸い穴が空いていた。
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