土鬼親子

 甲斐を途中まで送ると言い出した律は、「こっちが近道だから」と庭から竹林へと彼を誘った。


「すごい竹林……これ、もしかしてお寺の裏までつながってる?」


「そうみたいだね。もっとも、俺もそこまで行ったことないんだけど」


 薄暗がりの中、二人で竹林の中の細い道を歩いて行く。

 ほどなくして、ガサガサと茂みをかき分けるような音がどこからともなく響いてきた。何か大型の獣でもいるのだろうか? 音はすさまじい勢いで近付いてきている。


「何か来る!」


 甲斐が律をかばうように音の方に立ちはだかったので、律は驚きで目を丸くした。

 きっと土鬼が仔を迎えに来ただけだから危険はないのだろう、と律は楽観視していたのだが、事情を知らない甲斐は大型の獣か不審者を警戒したのだ。


 一方、律の懐におさまった尾崎は何も反応しない。近付いてくるものの正体がわかっているのだろう。

 はたして、ほどなくして何か巨大な土の塊のようなモノが、やぶをかき分け二人の前に現れた。


『わたしの仔が帰って来たので迎えに来た』


 妙にくぐもった声が頭の中に直接響く。

 もっとも、これは怪異を見る事ができる律に限ったことで、ただびとである甲斐には何も見えず、聞こえないはずだ。……そう思い込んでいた律は、甲斐が目を見開いて土鬼を凝視しているので驚いた。


「甲斐、見えているのか?」


「いや、見えるも何も、目の前になんかデカいのいるじゃん……」


 甲斐の唖然あぜんとした声。


「土鬼の仔が憑いてるからね。今なら人ならざる者の姿も見えるし声も聞こえるだろうさ」


 律の懐から顔を出した、子犬もどきの姿の尾崎がさらりと言った。


「バカ、お前も見えるんじゃないか」


 律は慌てて尾崎を押し戻そうとするが、尾崎はそのままするりと懐から出て律の肩へと移動した。


「お前の仔を連れてきた。さっさと連れてねぐらに帰れ」


 気を取り直して律が声を張り上げると、甲斐の首筋の痣がするりと抜け出し、真っ黒な蛇のような姿をとって土鬼のもとへとすり寄った。これで一件落着。

 そう安堵しきびすを返した律は、次の瞬間、焦った様子の甲斐に突き飛ばされた。一体何事だろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る