吐露(とろ)
律の言葉にかすかな煩わしさを感じて焦った甲斐。
我知らず、しまいこんでいた言葉がぽろりと零れてしまった。
「律が人を避けるのは俺のせいだ。歩道橋で落とされたのも、嫌がらせされたのも、俺が気持ち悪いなんて言ったから……」
「実際、気持ち悪い奴だったから仕方ない」
律が自嘲気味にそんなことを言うのがたまらなく嫌だ。
「そんなことない!!俺はただ……俺らといてもつまんなそうなのに、犬だか猫だかにはあんなにやさしく笑ってるのがムカついて……ただの八つ当たりだったんだ」
十年間、言えずに抱えていた想いが溢れだした。
「本当にごめんっ! 謝ってすむ話じゃないけど……」
勢いよく頭をさげたまま、溢れそうな涙をこらえてぎゅっと目をつぶる。そのまま俯いていると、ため息交じりに律が言った。
「別にいい。最初から気にしていない」
「律は気にしてない、他人なんてどうでもいいと言う、それが嫌なんだ。ちゃんと怒れよ」
もうここまで言ってしまったら取り繕っても仕方あるまい。甲斐はなりふり構わず、自分の想いを伝えることにした。
「実際どうでもいいんだから仕方ない」
「もっと人に興味持てよ。俺じゃなくていいから、誰か友達を作れ」
「必要ない」
律の答えはにべもない。甲斐はくじけそうになりながらも必死に言った。
「どうして?律だって人間だろう?」
「わずらわしい。どうせ上辺だけ取り繕って、自分の欲を満たす事しか考えてないくせに。いっそ最初から欲をむき出しにしていた方がよほど付き合いやすい」
「それじゃ、俺が取り繕わなければ友達になれるのか?」
「は?」
「俺は律に俺の事を見てほしい。お互いに踏み込める関係になりたい。そういう欲を取り繕わないで、むき出しにすれば友達になってくれるのか?」
つい勢いで言ってしまった言葉は甲斐の本音だ。律は軽く流そうとしたものの、真剣な目で睨むように律を見据える甲斐の言葉に偽りがないことを悟ると、途方に暮れてしまった。
誰かにこんなにまっすぐな心をぶつけられるのは初めてだ。欲に忠実なあやかしだって、ここまで純粋な願望を律にぶつけてくることはない。
「お前、本気で俺と親しくなりたいのか?」
「さっきからそう言ってる」
唖然とする律にきっぱりと言い切る甲斐。うっすらと目元を赤く染め、見据えてくるまっすぐな眼差しに、律はただ戸惑うばかりだった。
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