二人だけの秘密
時刻は午後二十一時。深雪はテレビの前に座ってぬいぐるみを抱いていた。
ガチャ。
扉が開く音がした。振り返るとそこには霜歩がいた。
「ふぶちゃ〜ん。何見てるのぉ?」
「霜歩さんですか。これから怖いのが始まるんですよ」
深雪は画面を指さす。画面には血みどろな文字でタイトルが書かれていた。
「へ〜私も見る〜」
霜歩は深雪の隣に来ると、ぴったりとくっついて座った。
「今回は初出しの映像もあるらしいですよ」
深雪は興奮気味に言う。
「どんな映像なんだろぉ?」
二人はワクワクしながら見ていた。しばらくして、場面は動画配信者の部屋へと移り変わった。そこに映っているのは可愛らしく、綺麗な女の子だ。
『はーいどうもー。みきでーす。今日は私の部屋の中を紹介しまーす』
配信者は明るい口調で言うと、部屋の紹介を始めた。映像が終盤に差し掛かると、二人は息を飲む。
『以上がお部屋の紹介でした!こんな感じで毎日楽しく暮らしてま……』
そこで配信者の声が途切れた。カメラの視点が動き出したと思ったら、血まみれの女が立っていた。
『キャアアアアア!!』
ザーーーーーー
悲鳴と共にノイズが入る。
「イヤー!最後にくるやつだったかー。怖かったですね。霜歩さん?」
深雪は隣を見ると、霜歩は顔を青くして震えていた。
「ふ、ふふふ、ふふふふふふ」
「ど、どうかしましたか?」
深雪は心配して声をかけると、いきなりガバッと押し倒された。
「えぇ!?」
「ふえ〜ん!怖いよおお!ふぶちゃ〜ん!」
霜歩は泣きながら深雪に抱きつく。
「ちょっ!離れてください!」
深雪は必死に抵抗するが、霜歩は離れようとしない。
「だってぇ!ふぶちゃんが側にいないと怖いもん!」
「わかりましたから落ち着いてください」
霜歩に抱きつかれたまま、二人は座り直す。
「ガクガクブルブル……」
「よしよし。大丈夫ですよ〜」
深雪は優しく頭を撫でる。
「もうちょっとこうしてていい?」
霜歩は潤んだ瞳で深雪を見つめる。
「はい。いいですよ。霜歩さん、こーゆーの苦手なんですか?」
「わかんないけど……ダメみたい……ふぶちゃんは平気なの?」
「まあ大抵作り物ですからね。でも、私はホラーとか大好きなので、全然平気です!」
深雪は得意げに胸を張る。
「そっかぁ。じゃあ今日は一緒に寝よ」
「しょうがないですね。いいですよ」
「あらあら、まだ起きてたの。おかわりのホットミルク持ってきたから、これ飲んだら寝ちゃいなさいね」
冬花がリビングに入ってくると二人を見て微笑む。
「ありがとうございます」
深雪は立ち上がるとマグカップを受け取る。
「ふふっ、仲良しなのは良いことよ」
冬花はニコニコしながら言うとリビングを出て行った。深雪は一口飲むと、ホッとした表情を浮かべる。
「美味しい。霜歩さんも一口どうぞ」
「うん。はぁ。ふぶちゃん……まだ見るの……?」
「録画してるんで大丈夫です。もう寝ましょう」
深雪はリモコンを手に取るとテレビをオフにした。霜歩は深雪に引っ付いたまま離れようとしなかった。
「うぅ怖い……目開けられない……」
「危ないんでちゃんと前見てください」
深雪は霜歩の手を引く。二人は手を繋いで廊下を歩いていた。
「手冷たいですね」
「ごめんねぇ」
二人は深雪の部屋に着くとベッドに入る。深雪は布団を掛けると電気を消した。
「ちょっと……霜歩さん……」
霜歩は深雪を抱き寄せて足も絡ませてきた。
「許してぇ……こうしないと眠れないのぉ」
「はぁ……仕方がないですね。あたしにも非はあるし」
深雪は諦めると静かに二人は眠りについた。
***
時刻は午前四時。深雪は目を覚ました。
「う〜ん……おトイレ行きたい……」
深雪は体を起こそうとするが、未だ霜歩に抱きつかれているため動けない。仕方なく深雪は霜歩の肩を揺する。
「霜歩さん。霜歩さん。起きてください」
「ん〜ふふふ……ふぶちゃ〜んそこダメ〜」
霜歩は寝言を言うと更に強く締め付けてくる。
「ぐぬぅぅぅぅ」
深雪は苦しそうな声を出す。
「ふぶちゃ〜ん。しゅき〜」
霜歩は幸せそうに笑っている。
「ぶはぁ……霜歩さん……トイレ行きたいんで起きてください」
深雪は必死に呼びかけるが反応はない。
(ヤバい……もうそこまできてるのに……)
足をバタつかせるが抜け出せない。
「ふ〜ぶちゃ〜ん」
今度は体をゆらゆらと揺らしてきた。
(待って……今揺らさないで……あぁ……)
限界が近づいてきた。
「ちゅー」
霜歩は深雪の顔に近づくとキスをした。すると、深雪はビクンと跳ねた。
「んっ!んん……」
深雪は体の全チカラが抜けていったのだった―――
***
時刻は午前五時。鳥のさえずりで霜歩は目を覚ました。
「あれ?あ……そうだ。ふぶちゃんと一緒に寝たんだった」
霜歩は深雪を抱きしめていたことに気付き慌てて離す。
「ふぶちゃん大丈夫かな?」
深雪の顔を覗きこむと手で顔を隠して泣きじゃくっていた。
「ふぶちゃん!?どうしたの?」
霜歩は心配して声をかけると深雪はゆっくり顔を上げる。その目は虚ろになっており、涙が溢れていた。
「ふぶちゃん?」
もう一度声をかけると、深雪はゆっくりと口を開いた。
「ばかぁ……霜歩さんのばかぁ……ひどいですよぉ」
「えっ!?何が!?」
突然罵倒されて霜歩は混乱していた。
「お、おしっこ我慢してたのにぃ!あんなに激しくしたら出ちゃうじゃないですかぁ!」
深雪は目にいっぱいの涙を溜めて訴える。
「おしっこ!?は!濡れてる……」
霜歩は下を見ると、ズボンに染みができていた。
「もしかして漏らしちゃったの?」
霜歩は恐る恐る聞くと、深雪は首を横に振った。
「違いますよ!霜歩さんのせいで出しちゃったんですよ!」
「ご、ごめんね。わざとじゃないんだけど……」
霜歩は申し訳なさそうに謝る。
「お願いです。冬花さんには知られたくないです。なんとかしてください」
深雪は懇願するように言う。
「わかった。じゃあさっさと洗濯しちゃおう」
二人は大急ぎで証拠を隠蔽した。
***
時刻は午前七時。冬花がリビングにやってきた。
「おはよう。あら、二人共早起きさんね」
冬花はいつも通り挨拶をする。
「はい。今日はたまたま目が覚めたんです」
深雪は誤魔化すと、朝食を食べ始めた。
「今日は少し冷えるわねぇ。二人とも風邪ひかないように気をつけて」
冬花はキッチンに向かうと食器を洗い始める。
「わかってますよね。霜歩さん」
深雪は小声で話しかける。
「うん。墓まで持っていくから」
霜歩も小声で答える。
「これは」
「二人だけの」
「「秘密だから」」
二人はテーブルの下から固い握手を交わすのであった。
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