晴氷のお宅訪問

「それじゃあいってきまーす」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「ふぶちゃんいってら〜」


 冬花と霜歩に見送れられ、深雪は家を出る。


(今日も寒いな……)


 深雪はマフラーを巻き直し、足早に学校へと向かう。


(昨日は大変だった……)


 冬花と霜歩にたっぷり可愛がられてぐったりした深雪は、次の日の朝まで眠り続けていた。


(あんなにされるなら弱みを握る必要はなかったわ……)


 昨日のことを思い出して、深雪の顔が熱くなる。


「ふーぶき!おはよ!」

「わぁ!晴氷はるひ!おはよ」


 いきなり肩を叩かれて驚く。


「何考えてたの?」

「い、いや、何も」

「そう?」


 深雪は冷や汗を流しながらも笑顔で誤魔化す。


「ところでさ、今日学校終わったら空いてたりする?」

「今日?特に予定はないけど」

「深雪の家行きたいんだけど、いい?」

「えぇ……」


 深雪は困ったように視線を落とす。


「やっぱり迷惑だった?」

「ううん、そういう訳じゃないんだけど……」

「じゃあ決まり!」


 深雪は諦めたような表情を浮かべる。


「はぁ……しょうがないわね」

「やったぁ!」


 嬉しそうな顔で喜ぶ晴氷を見て、深雪は微笑む。


***


「どうしよう!」


 学校に着いた深雪はトイレの個室の中で頭を抱えていた。


「どうすれば……とにかく晴氷とあの二人が一緒になったら大変なことになる……なんとかして阻止しないと」


 深雪は必死になって考える。しかし妙案は思いつかない。


「あたしがなんとかするしかないか……」


 深雪は覚悟を決める。


***


 放課後になり、深雪と晴氷は一緒に学校を出る。


「楽しみだなぁー。どんなお姉さん達なんだろう」

「う、うーん……」


 深雪は苦笑いしながら相槌を打つ。


「ふぶきのお姉さんはどんな人?可愛い系?綺麗系?」

「えーっと……綺麗系……かな?」

「そっかー。早く会ってみたいなー」


 深雪は不安になる。もしこのまま晴氷があの二人と会ったりしたら……想像するだけで恐ろしい。


「あっ、あれかな?」


 いつの間にか二人は深雪の家に辿り着いていた。


「そう。ここがうち」

「おおー!」

「ちょっと待っててね」


 深雪は家の扉を開ける。


 ガチャリ。


「おかえりなさい」

「おか〜」


 深雪の想像通り冬花と霜歩はすぐに出迎えてきた。


「お邪魔しまぁす」

「あら、お友達?初めまして。ふぶち……」

「わぁー!わぁー!ただいまー!」


 冬花の声を遮るようにして深雪は大声を出す。


「どうしたの?」

「なんでもない!冬花さんと霜歩さんはリビングでゆっくりしてて!」

「え〜?せっかく自己紹介しようと……」

「そうだよ。初めまして。深雪の友達の小森晴氷です。いやぁー二人共美人なお姉さんでびっくりしました」

「あら嬉しい」

「えへへぇ〜」


 深雪は急いで靴を脱ぎ、二人の背中を押して玄関から遠ざける。


「あたし達は部屋にいるから絶対に入ってこないでね!」

「あらあら、でも……」

「絶対にダメだからね!」


 深雪は念押ししてから二人を残して階段を駆け上がっていく。バタンッ! 勢いよくドアを閉め、深呼吸をする。


「はぁ……危なかった」

「はぁーお姉さん達綺麗だったー」

「そうね……」


 深雪は複雑な気持ちで答える。


「とりあえず座ろう」

「うん」


 深雪と晴氷はそれぞれ椅子に座る。


「それでさ、深雪のお母さんとかお父さんはいないの?」

「今は仕事で海外に行ってるの」

「ふぅーん」


 コンコン。突然部屋のドアが鳴る。


「ふぶち……」

「わぁー!今行くから待って!」


 深雪は慌てて立ち上がると、部屋の戸を開けて廊下に出る。


「な、なに?」

「よかったら、お茶とお菓子持ってたわ」

「ありがとう。あたしが持ってくから冬花さんはリビングにいて下さい」

「えぇーせっかくふぶちゃんのお友達と話せると思ったのにぃ」

「お願いします」


 深雪は冬花に頭を下げる。


「わかったわよ。ふぶちゃんは良い子ねぇ。それじゃあ、ごゆっくり」

「はい」


 深雪はホッとした表情を浮かべ、再び部屋に入る。


「お待たせ」

「んでさぁ〜ふぶちゃんとはいつも一緒にお風呂入っててぇ」


 そこには霜歩と晴氷が楽しげに会話していた。


「ちょっ!霜歩さんいつの間に!?」

「いやぁーだって暇なんだもん」

「終わった……」

「へー深雪ってふぶちゃんて呼ばれてんだー」

「もうヤダァ……」


 泣きそうになる深雪の後ろから冬花が優しく抱きつく。


「うひゃあ!」

「霜歩ったら困った子ね。私も混ぜて」

「いいですよー」

「良くないです!」


 結局四人で仲良くおしゃべりすることになった。


***


「それでそれで!ふぶちゃんのこともっと聞かせて!」


 冬花と霜歩は目を輝かせながら聞く。


「えーっと、中学二年の時に身長測ったら149.6センチだったのを『四捨五入したら150cmだわ!』って大喜びしてたことがあったり」

「それは言っちゃだめ!」

「あとはぁ〜」

「ストーップ!ストップ!それ以上言ったら怒るわよ」


 顔を真っ赤にして慌てる深雪を見て、二人はニヤリとする。


「えぇー?そんなこと言わずに教えてよぉ」

「逆に家での深雪はどんな感じなんですか?」

「えーっと、ふぶちゃんは恥ずかしがり屋で可愛いんだよ〜」

「霜歩さん!何言ってるんですか!」

「ほほう」

「あとはお姉ちゃんのお膝の上でお菓子食べたり、一緒にお昼寝したり、一緒にお風呂入ったりするんだよね〜」

「ちょっと!なんで全部言うのよ!」

「深雪ってば顔が赤いぞー」

「うう……最悪……あたしの大人なイメージが崩れちゃう」

「大丈夫だよ。深雪は普段から子供っぽいから」

「うう……晴氷まで……」


 深雪は恨めしそうな目で晴氷を見る。


「まぁ、私は深雪がどんな人でも気にしないけどね」

「あらぁ?」


 なぜか冬花がニヤニヤしながら見てくる。


「な、なんですか」

「なんでもぉ。じゃあお姉ちゃん達はお邪魔みたいだからリビングに戻ってるわね」

「ばいび〜」


 二人はそそくさと出ていく。


「嵐が過ぎ去った気分だわ」

「でもよかったよ」

「え?」

「いや、あんな風に深雪のこと大事に思ってるお姉さん達で安心した」

「そう?そう言われると嬉しいかも」


 深雪は照れくさそうに微笑む。


「これでも心配してたんだよ?新しい家族の人と上手くやっていけるかなって」

「晴氷……」


 深雪は嬉しくなって晴氷の肩に寄り添う。


「ありがとね。晴氷」

「うん。ふぶちゃん」

「もう……からかわないで。ばかぁ」

「ふふっ、かわいい」


 晴氷は深雪の頭を撫でる。深雪は気持ちよさそうに受け入れたのであった。

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