お姉ちゃんの弱点
ある日の休日、三人はリビングのソファーに座っていた。
「ふぶちゃんが来てもう一ヶ月ね」
「そうですね」
「早いねぇ〜」
「ふぶちゃんのおかげで毎日楽しいわ」
「あたしもです。冬花さんや霜歩さんと一緒に過ごせて幸せです」
三人は見つめ合って笑い合う。
「そろそろ、その……敬語は辞めない?」
「そうだよぉ。私達は姉妹なんだからさぁ」
「でも……それは……」
深雪は口籠もる。
「まあ、すぐにとは言わないわ。でも、いつかはお願いね」
「はい……うん」
深雪は小さく返事をする。
「ほら、いらっしゃい」
冬花は自分の膝の上をポンッと叩く。
「いやいや、流れるように言っても座りませんよ」
「いいからいいから」
「いやいやいや」
深雪は首をブンブン振って拒否する。
「いいじゃない。減るものでもないし」
「減ります!確実に何かが減っています!」
「大丈夫よ。お姉ちゃんが癒してあげるから」
「そういう問題じゃありません!って、ちょっ!引っ張らないでください!」
深雪はズルズルと引き摺られていく。
「はい、座った座った」
「うう……わかりました」
深雪は渋々といった様子で冬花の膝の上に座った。
「はいふぶちゃん、あ〜ん」
今度は霜歩がクッキーを差し出してくる。
「自分で食べられます」
「遠慮しないのぉ」
「はむ……」
深雪は差し出されたクッキーを食べる。
「ふぶちゃんこっちもぉ」
「あ〜ん」
冬花に優しくお腹をマッサージされながら、次々と食べさせて貰う。
「ん……」
「美味しい?」
「おいしいれす……」
深雪はトロンとした表情で答える。
「気持ち良い?」
「きもちぃ……」
「もっとしてほしい?」
「もっと……」
深雪は言いかけでハッと我に返る。
「ち、違います!今のは……」
「違うの?」
「違わないけど!いや、あの……」
「ふふっ、ふぶちゃんは甘えん坊さんねぇ。よしよーし。抱っこする?」
「もう!お部屋行く!」
深雪は勢いよく立ち上がる。
「えぇー!もっと遊ぼうよぉ」
「ダメです!今日は終わり!」
「じゃあせめて一緒に寝ようよぉ」
「だ、だめです!」
深雪は逃げるようにして自室に戻った。
***
またある日の休日、冬花と霜歩は何処かへ出掛けるようで、身支度をしていた。
「冬花さん達、どこか行くんですか?」
「ちょっとそこまでね」
「すぐ帰ってくるよぉ」
「そうですか」
深雪は少し残念そうな顔をするが、すぐに笑顔に戻る。
「じゃあ行ってくるわね。お留守番よろしくね」
「行ってきまぁす」
「はーい」
二人を見送った後、深雪は玄関で一人寂しく立ち尽くす。
(……ふふ……ふっふっふ)
と思ったら怪しげな笑みを浮かべる。
(今日は二人のいない日!つまり!何をしても自由!)
深雪はドヤ顔で仁王立ちする。
「さてと、まずは……」
深雪はゆっくりと歩き出す。そして冬花と霜歩の部屋の前で立ち止まった。
「普段あたしを子供扱いした罰よ。ここで弱みを握ってやる」
まずは霜歩の部屋に突撃する。
ガチャリ。
扉を開けると可愛らしいぬいぐるみがたくさん置いてある。
「わっ、可愛い……」
思わず声に出てしまう。部屋の中を見渡すが、特に変わったところはない。
「何もないじゃない。もう!」
深雪はその中でも大きなうさぎのぬいぐるみを抱きかかえる。ふかふかしていてとても抱き心地が良い。
「むぅー可愛いじゃないの!何でこんなに可愛いのよ!」
ぬいぐるみを抱き抱えながら辺りを散策する。するとクローゼットを見つけたので開けてみると、中にはたくさんのコスプレ衣装があった。
「おぉ……凄い量」
深雪は感心しながら一つ一つ手に取って眺めていく。どれもこれもクオリティが高く、深雪は興味津々である。
「これは……猫耳?」
黒い生地に白いレースが付いたものを手に取る。どうやらネコミミのようだ。
「やだなにこれ……布の面積が少ない……うひゃぁ!?」
次に目に入ったのはマイクロビキニだった。しかもただの水着ではない。紐パン仕様だ。
「いやいやいや……いくらなんでも無理があるんじゃ……」
他にも露出度の高い服ばかりだ。
「うわぁ……これなんかヒモじゃん……」
深雪は真っ赤になりながらそれらを元の場所に戻す。
「うう……流石にこれは……」
深雪は気を取り直して、冬花の部屋に向かう。
ガチャリ。
冬花の部屋の中は綺麗に整頓されていて、あまり物が置かれていない。
「ふむふむ……」
深雪は本棚に近づく。そこには漫画がぎっしりと詰まっていた。
「冬花さん漫画好きなんだ。どれも見たこと無いタイトルばっかり」
深雪は適当に一冊取り出してみる。
「『小さなアザレアと秘密のエリンジウム』?ふーん、どんな話なんだろ」
深雪はペラっとページを捲る。
「ふむ」
ペラっ。
「ふむふむ」
ペラっ。
「ふーむ」
ペラっ。
「ん?」
深雪はあることに気づいた。
「この本……全部女の子同士の恋愛ものだ……」
「あら、バレちゃった?」
「わっほい!!」
突然後ろから声を掛けられた。振り向くと冬花がいた。
「いいいいつからいたんですか!?」
「最初からだけど?」
「なんで言わなかったんですか!」
「だって面白かったから」
冬花は悪びれた様子もなく答える。
「面白いって……」
「ふぶちゃんが私の部屋に入る前からずっと見てました」
「うう……」
深雪は恥ずかしくて顔を赤く染める。
「それで?お姉ちゃんの部屋に勝手に入ってなぁにしてるのかな?」
冬花はニヤニヤしている。
「べ、別に何も……」
「嘘ついちゃダメよ。お部屋で何をしていたのかしら?」
「だから何も……」
「正直に言いなさい」
冬花の圧に押されて深雪は渋々白状する。
「えーと、そのー、二人の弱みを握ろうと思ってですね……」
「なるほどねぇ」
冬花は大きくため息をつく。
「そんなことしなくても……」
「え?」
怯えながら正座をしている深雪を冬花が優しく抱きしめる。
「お姉ちゃんの弱いとこならいくらでも教えてあげるのに」
冬花は深雪の頭を撫でながら言う。
「いや、あの、それはちょっと」
「とりあえずお仕置きしなきゃね」
「へ?」
「あれぇ?二人共何してるのぉ?」
そこに現れたのは霜歩だ。
「いいところに来たわね。これからふぶちゃんをお仕置きするから手伝って」
「うん、わかったぁ」
「ちょ、ちょっと待ってください!二人がかりなんて聞いてませんよ!」
「問答無用♡」
「そうだ!ふぶちゃんに着せたいコスプレがあるんだぁ」
「あ、それ良いかも」
「良くないです!やめてえええええ!」
深雪の悲鳴は虚しく響いたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます