ちょっと俺の話聞いてくれる?
海堂 岬
第1話 俺の話
うわぁぁっつ、あぶねぇあぶねぇ。まったくもう。本当に雑な女だなぁ。俺のこともうちょっと、丁寧に扱ってくれよ。
あ、そこの人、ちょっと俺の話聞いてくれる?
この女さぁ、俺の扱い雑なんだよ。踏まれそうになったこともあるんだぜ。可哀相な俺だろう。ちょっと同情してくれる? してくれるの。ありがとう。あんた、良い人だね。
あんたが見てわかるだろうけど俺はさ、そんな良いところのお坊ちゃまじゃあないわけよ。あいつらすごいよな。金銀宝石何でもありだ。漆がどうのとか、俺には遠い世界で、想像つかねぇよ。一点ものだとか、限定何個でシリアルナンバー入りがどうとか、聞いてるだけで俺の頭がくらくらしちまうね。
俺? 俺はまぁ、ほら、何と言うか。親しみやすい奴だよ。ほら、ね。今だってそうだろう。親しみやすいから、俺の話聞いてくれてるんだろ。ありがとな。
大したことないよ俺なんて。どこにでもいるような、何の変哲もないやつだよ。うん。まぁそうだよね。そんなありふれた俺に、もう何年も付き合ってくれてるんだから、まぁ、悪い女じゃないよ。
え、何年になるかって? 何年だ? えーっと忘れちまったなぁ。忘れちまうくらい長い付き合いになったってことか。
いい話もあったんじゃないかって。そうさなぁ。まぁ、これを言うのはちょっと気恥ずかしいけど、愚痴だけ聞いてもらうのも、なんか悪いから一応話しとくか。
見た感じこれだろ。俺なんて飾ったってしょうがない。高級感なんてどこにもないじゃん。そんな俺のために専門店で何時間も粘って、結構な高級ブランドを、店員さんにあれこれ出してもらって、俺に似合う色を探してくれたんだ。え、いい話じゃないかって。そうだな。うん。ちょっといい話だ。え、どこのブランドかって? 舶来だよ。舶来。聞くなよ。恥ずかしいじゃねぇか。
まぁ、金持ちの綺羅綺羅しい連中に目もくれず、何年も俺と付き合ってくれてるからなぁ。それなりに大切にされてるんだろうけど。
って、まぁ、おい。ちょっとまて、またかよ。危ないだろ、この高さから落ちたら、頑丈な俺だって危ない、うわぁぁぁ!
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