異世界を生きる僕

ぱるめざん

プロローグ

僕にとってこの世界はひどく退屈だった。


精一杯生きたつもりだ。そこそこの人生を歩んできたつもりだ。仲の良い友達もいるし家族仲だって非常に良い。勉強も部活も恋愛もそこそこ努力し目標を達成してきた。そう、不満などないのだ。ただ、どこか満足できない。ふとした時、自分は本当に「生きている」のだろうかと感じる。部活で強豪校を打ち破った時、目標大学に合格した時、好きだったあの子と付き合えた時、W杯で日本を全力で応援した時、全部が全部いい思い出だが思い返すと「生きている」実感がないのだ。時々、「生きる」ことができないなら「死のうか」と考えることがある。しかし、この世界で死ぬことは非常に難しい。治安は安全すぎるし、命の価値が重すぎるのだ。これは決して悪いことではなく寧ろ非常にいいことだ。先人たちの多くの犠牲と知恵によっていまがある。しかし、僕にはそれがひどく退屈に感じた。


僕は決められた線路を走った。走ったと言うより歩いたと言うべきか。親に期待されたことをこなし、社会的に成功と認められることを目標として生きてきた。その結果、輝かしいキャリアと空虚だけが残った。時間が経つに連れて、空虚の割合が大きくなる。「死のうか」の気持ちが大きくなる。しかし、自分を大切に思ってくれる人が枷になった。自分が死ぬことで悲しむ人が少なからず何人か存在した。だから僕は生きた。その人たちのために精一杯生きたのだ。しかし、そんな僕でも寝る前にはいつも、このまま目が覚めなければ、みんなの自分に関する記憶が無くなれば、とずっと願っていた。そう願い続けること10年、とうとうその思いが通じたのか僕は転生した。元の僕がどうなったのかはわからない。もしかしたら僕が死んでいて家族や友達が悲しんでいるかもしれない。そう思うと胸が少し痛む。だが僕はその思いに蓋をした。これは地球で退屈を感じた僕が、異世界で「生きている」という実感を感じるために生きる、酷く独善的な物語だ。



※鬱展開あり

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