隣にできた骨董屋

フィオー

第1話


 なんだこれ……。


 店の中には、とんでもない商品が並んでいた。


 金銀に輝く食器が1枚1枚、太陽光発電みたいに、天井の証明を向いて陳列されている。


 反対側には真鍮製の鳥がいる……。その奥にはスチームパンクなパイプと歯車の精巧すぎる機械が置いてある。


 ……場違いなところに来てしまった……。


 まぁ、貧乏人向けの店ではないが、別に僕みたいなのがいちゃいけないわけではない。


 だいたい10年住んでるアパートの近くにずっとあった古家が、いつの間にかリフォームして店に変わったから、どんなもんかと入ってみたんだ。


 何かと思ったら骨董屋か……。


 花でいっぱいの庭ができてたから、花屋かなと思ったが……。


 もうちょい見て回ってから、すぐ出ていこう。


 すぐ出て行ったらこの店に、あいつ高い店だと知って場違いだと逃げてった、とバカにされるに決まっている。


 ……しかし、並べられてる品は全部、すごい高そうだ……。


 ああっくそっ。買ったばかりの安物の靴が擦れて痛い。


 これ以上擦れて怪我が悪化しないように、靴から踵を出した。


 そして置かれている、回る太陽系の模型かと思ったら時計だったりするのを、驚きを隠しつつ、いい仕事してるというわかっている顔を作り見る。


 銀の皿みたいなのがいくつも付いた望遠鏡だったり、手品を見るような気持ちで、並んでるなんともすごい品を、見て回った。


 と、品が並ぶ棚が途切れる。


 棚と棚との合間には、女の子の人形が椅子に置かれていた。


 人がほんとに座ってるようだった。


 ……頭に猫耳がついている……かわいい。


 しゃがみ、そっと顔を覗くと、その大きなとび色の瞳が動いた。


 ん?


「いらっしゃいませ」


 人形の小さな口が動き、僕を見つめ言う。


 心臓が飛び出しそうになった。


「ここここん、にちは……」


 しかし、なんとかこらえ、挨拶をかわす。


「マスターかどうか迷ってしまいました。改めて挨拶申し上げます、このような粗末な店にようこそいらっしゃいました」

「……いえいえ……」


 人だったのか……びびったぁ……。


「……えっと……お客様、シャラナの名前はシャラナと申します」


 女の子がぺこりと頭を下げる。


「ああ、そうなんですか……」

「何かお探しですか? さきほどから真剣な顔つきでしたけれども?」

「いや、すごく高……珍しそうな品が並んでいるものですからね」


 高そうな、なんて感想は貧乏人とバカにされてしまう。


 いかにも買いそうな客と思わせてやろう、僕のプライドが傷つかぬように。


「お褒め頂き感謝いたします。ご覧の商品はすべて、シャラナの工房で、シャラナの手により作りました物でございます」

「え! あなたが作ったのですか?」

「はいっ」


 女の子の顔は自慢げに微笑んでいる。


 まぁ、可愛い嘘だなぁ。


「感嘆します、これほどの品を創れる熟達した技術には、驚くばかりです」


 女の子に合わせて、僕は軽く頭を下げた。


「いえ、魔法の鍛錬をまだ積み始めたばかり、まだまだでございます、大将にはまったく及びません」

「魔法?」

「はい」

「魔法って、あの、箒で空飛んだりの」

「ふふ、そうでございますね」


 女の子はくすくす笑う。


「飛べるんですか?」


 少しからかいつつ、尋ねた。


「魔法と言われましても、シャラナの学んでおりますのは、魔道具の作成技術のみでございます。それしか法律で許されておりませんので、あいにく、空を飛ぶ魔道具は……」


 申し訳なさそうに、女の子が頭を垂れる。


「では、道具で、何か魔法の見れるものはないですか?」


 女の子は僕を見つめ、


「ありますとも。お客様なら、特別に、よろしいですよ」

「ホントですか?」

「ええ。お客様ならきっと大丈夫でございます。そうだシャラナの自信作をご覧くださいませ、大将も驚く品でございます」

「ぜひとも」

「ではこちらへ」


 女の子は足のついてない椅子から飛び降り、店の奥の方へと先導していった。


 戸口を抜けていく。


 抜けた先は工房だった。


 でも、一般的な工房じゃない。


 いったい何に使うのか見当もつかない、多分道具類がたくさん中央の机に乱雑に置かれてある。


 渦巻く形の金棒、嘴がたくさんついた金棒、毛が生えた金棒、いろんな金棒が壁にかかっていた。


 棚には色とりどりの鏡が並び、大小さまざまな石板が、用途別にかごに入れられている。


 電話だけだ、用途が分かるのは。


 女の子は工房の奥にある、どでかい石の前で立ち止まった。


 僕の方に振り返る。


 どうやら見せたい物はこれらしい。


 まんじゅうの形した大石、その両側面に、大きな穴が開いている。


 自然にできたものではない、穴は完全な円だ。


 石の中を貫通している、真円のトンネルと言ったところだ。


「この巨石は、天然の魔石でございます」


 女の子は僕の横に立ち、大石を指し示した。


「こちらの穴をお覗きくださいませっ」

「こ、ここを?」


 僕は穴に顔を近づける。


「そこから見える光景を、ご覧ください。そして何が見えるかをお教えくださいませ」


 この穴が何なんだろ?


 ゆっくり顔を下げ、穴の中を見る。


 トンネルになっているから、中を覗くとあちら側が見えた。


 当たり前だ。


「この穴を創るのには、苦労いたしました。少しでも間違えますと魔石の魔力が台無しになりますゆえ」

「はぁ、なるほど」

「どうです、穴から見える光景は」

「え?」


 どうと言われても、向こう側が見える、当たり前の光景だ。


 別に、なんなんだ、何で覗かせた?


――あっ

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