バナナ・ガーベラ
ぺてろんちーの♡
1-1 バレー部、瓦解する
夏休みの終わり、バレー部は瓦解した。バレー部のうち、櫻子の中三十一人の中で、バレー部に残ったのは六人だ。大森先生は既に体調を崩し始めている。担任を受け持っている高一の先輩からは、大森先生の出勤が朝礼に間に合わない日が週に何度か出るようになってきた、という話をえおちゃんから聞いた。えおちゃんは、その話をしていた先輩……和田先輩は、「いないと不愉快じゃなくていいわ」なんて笑いながら言っていた、と、えおちゃん自身も笑いながら言っていた。
白石さんはいつもトスに失敗する、凉子ちゃんは背が低すぎる、みゃーこは出しゃばりのくせにいつまで経っても頓珍漢な方向にアタックして失点する。当の櫻子は消極的な性格なので失敗は目立ちにくいけれどもパスする時に気が利かなかった。仲のいい友達にすぐにパスしようとしてしまって、試合に勝つための流れを作れるとは言えなかった。試合にもあまり出なかった。ただ応援席で先輩に怒られないように声を出さないで友達と手いたずらをして、退屈をしのぐばかりだった。それで、櫻子はあまりこの事件に関与していなかったのだが、春から夏にかけて、試合出場メンバーの人選や配置で、大森先生と、中三の佐伯さんや中二の木村さんらが中心となったバレー部の中学生らが多いに揉めたのだ。中学生は人数が多いのでこうして揉めることが多かった。高校生の部員についても、以前に似たようなことがあったためにようやくちょうどいい人数になって回っているという話だ。
櫻子が気付いた頃にはもうすっかりバレー部員の絆というものは壊れきっていて、中一の時に一緒にバレー部に入ろうと誘ってきたえおちゃんはあんなにバレー部員として大森先生のことをあてこすっていたのにさっぱりした顔で英会話部に転部したらしい。中二でクラスが別々になってからえおちゃんとは距離が出来てしまったのでえおちゃんを頼って英会話部に入るということも、櫻子はほんの少し思っただけで、結局頼むこともできなかった。バレー部に愛想をつかした子や、あまりバレーが上手にならなかった子は、みんなが辞めていく今この時が好都合とばかりに他の部活に入ったり、バレー部をやめて塾に集中するようになっていった。櫻子はすっかり出遅れた。誰についていけばいいかもわからないまま、大森先生を異様に敵視して結束するバレー部の中に取り残された。バレーボールがとても好きなわけではなかった。もう卒業した四学年上の水野先輩がかっこよくって好きなだっただけだった。えおちゃんと一緒に用具を選んだり、一緒に電車で帰るのが好きなだけだった。どうしようか。
秋になると試合の話は落ち着いたので、一応は朝練の走り込みと夕方の練習をするくらいで、特にバレー部で波風が立つわけではなかった。いる分には構わないけど、いても面白いわけではない。ただ、中三の秋だから、先生は進路の話ばかりするようになって、学校にいるだけで息が詰まるようだった。国語は人並にできる。英語は、小六の時に母親に塾に入れられたのでこれまでそれなりに出来る。なんとかAクラスに入ることは出来たが、それでも上の下といった感じで、外部生で中学に入ってから勉強を始めて、櫻子よりもうんと英語ができ、社交的なので外国人教師に積極的に英語で話しかけてぐんぐん成長していく――たとえば平岡さんなんかを見ると何となく劣等感が刺激されるのだった。国語と英語はまあいい。数学は因数分解の時点でほとんどつまずいていた。本当に苦手でCクラスにいる。非常勤の榎本先生は何かに苛立っているような雰囲気を常に漂わせていて、出来の悪いCクラスの生徒たちを「なんていうかさ、あんたたちやる気ないよね。どうせ数学なんか受験で使わないもんね。あ、使えないか」とか、時折見下すようなことを言っては櫻子を萎縮させた。榎本先生の授業は説明がぼんやりしていて、誰かが質問してもあまり頭に入ってくるような返答はしてもらえなかった。榎本先生もCクラスの生徒も、相手が悪いと思っているような、そういうギスギスした雰囲気が嫌だった。櫻子は授業中におなかが痛くなって、榎本先生は適当に座席表だけ見て問題をあててきて、問題はわからないし、先生は怖いしで、呆然とした顔をして、先生にわからないような、薄い涙が目玉にはりつかせながら、榎本先生を憤慨させるのだった。来年になれば数学はやらなくていいと耐えるしかなかった。
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