紀行文、という形をとった小説。
私小説、とも言い得るか。
紀行を素材に、虚もいれて織り上げてある。
基本的に、私は太宰治の作品は好きではない。それはきっと、太宰治の持ち味であろうし、人気の理由ともなるものであろうけれど。
さりながら、本作は、気もちよく読めた。あくまでも創作物であるが、その姿勢が明朗でまっすぐで。
内容としては、相変わらずの親なるものへの愛憎だの自己弁解(自己愛)ではあるが。それが明るく、健気にあらわれてあって。
こういうものを、もっと書いていただきたかった。言い方をかえれば、こういうものを書ける状態であってほしかった。