第34話 シェルターで留守番じゃなく?
管理の首輪を手に入れてから数日後。ようやく改造が終わったと連絡があった。
話を聞くためダイニングで待っていると、ナータやダリア、アデラといった機械ゴーレムの他、ニクシーやシェリーといった人間まで集まる。全員集合だ。
目覚めたときは俺とナータだけだったのに。随分と増えたな。女ばかりなのは少し気になるが、別に困ることはないので問題はないだろう。全員、機械ゴーレムの体になっているしな。
ナータがテーブルに管理の首輪を置いた。
手に取って触ってみる。ひんやりと冷たく、皮の独特な匂いがした。たいした素材は使ってなさそうだ。
「先ずは管理の首輪の機能説明をします」
「頼んだ」
管理の首輪を触りながら、耳だけをかたむける。
「主な機能は、個人認証、起床・就寝の管理、毒針による殺害機能、現在位置の送受信、魔力の封印、映像・音声の記録……」
「待て。管理の首輪には、映像や音声を記録する機能があるのか?」
「最大数日間記録できるようになっておりました」
さすがに記録できる期間には限界があるようだ。
機械ゴーレムの情報処理速度は人間と同等ぐらいだし、常に記録を見るようなことはしないだろう。見逃した少女から、俺たちの存在にたどり着くことは難しいはず。
もし毎回チェックしているのであれば、元神兵であるダリアが何か言ってただろうしな。気にしなくても良いか。
「なら問題ないな」
「はい。また管理の首輪は、装着した人の魔力を自動で吸い上げ、動作していたようなので、外した今は無効化されています。私たちやシェルターの場所がバレる可能性はほぼありません」
魔力を本人には使わせず、管理の首輪が勝手に使うとは。寄生虫みたいな存在である。
「他に知っておくべき機能はあるか?」
「後は懲罰用に電流が流れるぐらいです。死にはしませんが、筋肉が硬直して動けなくなる程度の威力はあります」
騒動が起きたときに命令一つで、全ての人が行動不能になるか。人を管理するのに特化した機能である。
「で、この首輪は、どの機能を停止させている?」
「個人認証と現在位置の送受信以外は全て停止させました」
「また個人情報は偽の情報に上書きしております」
「偽の情報だと、調べられたらすぐにバレてしまうのではないか?」
当然の対応ではあるが、偽の情報で騙されるほど上級機械ゴーレムの管理は甘くないだろう。戸籍管理ぐらいは、しっかりとしているはずだ。
俺の疑問に答えたのは、ナータを押しのけて前に出たダリアである。
「商業の神が管理する都市ならそうなんだけど、他の都市から来たってなら話は別だよ。上級機械ゴーレム同士は情報を共有しないから」
友好的であっても管理している人の情報は渡さないようだ。
上級機械ゴーレムの交流は、あくまで経済を活発化させることが目的で、管理の方法については独自路線を進めているのか。
いつ敵対するか分からない状況ということもあって、情報は秘匿する方が良いとの判断なのだろう。発展ではなく文明の停滞を選んだのであれば、まぁ、理解できる話ではある。
キメラハンターの証明書にも名前は書かれているが、管理の首輪の情報と同時に確認されることはないから大丈夫そうだ。
「では、改造は完ぺきで偽装はバレることはない、その理解であっているか?」
「もちろん。少し前まで神兵をやっていた私が保証するよ」
胸を張って返事をしたダリアから視線を移してナータを見る。
最後に信じられるのは、俺が特別な素材を使って作った機械ゴーレムなのだ。
「改造には私も手伝いました。上級機械ゴーレムごときなら騙せるでしょう」
「わかった。後で最終チェックしてから、付けるとしよう」
管理の首輪については、この程度で良いだろう。後は都市の侵入方法について話しておく。
「これからの予定だが。俺は襲われている商隊を助けたキメラハンターとして、都市に侵入する予定だ」
ダリアの情報から、商隊は必ず数度襲われると聞いている。助けたついでに護衛を申し出て、強引に付いていく予定である。
キメラハンターの証明書も名前の部分は偽造が済んでいるので、簡単にバレることはないだろう。
「お前たちとは一緒にいられないが、問題ないよな?」
ナータは何か言いたそうにしていたが、ダリアが話し始めたことによって言葉にはならなかった。
「機械ゴーレムが一緒にいる方が危ないから、別行動で大丈夫だよ。あとで合流しよ」
「合流? シェルターで留守番じゃなく?」
「うん。機械ゴーレムだからこそ、侵入できる方法があるからね」
どうやら俺とは別ルートで都市に侵入するらしい。
「方法は?」
「都市の外には、壊れた機械ゴーレムを破棄する場所があってね。そこから侵入できるんだ」
頭脳や心臓代わりの小箱が破壊されれば、機械ゴーレムは完全に機能を停止する。人であれば付け替えは可能だが、機械ゴーレムが頭脳を変えようとすると、自己改造の禁忌に触れてしまうため手は出せない。
だから、捨てるしかない。というわけか。
「見つかりはしないだろうな?」
「もちろん。任せて」
「だが、複数人が侵入すれば、それだけ見つかる可能性が――」
「マスター、行かせてください」
俺の言葉を遮ってナータが力強く懇願した。一歩も引きたくないという気持ちが伝わる。間違いなく感情的になっており、この先どうなるのか見たくなった。
アデラも鼻息を荒くしながら俺を見ていて、行きたそうにしている。
三体が一緒に行動していれば、見つかっても捕獲されることはないだろう。許可を出すか。
「全員で行動するならいいぞ」
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