第11話 実際の都市を見たくなってきたぞ

 常識の違いを掘り下げるのも楽しそうだが、今は他のことも聞きたいので話題を変えよう。


「生活が首輪によってコントロールされているのは分かったが、仕事はどうしている? それも首輪によって決められるのか?」


 人間の適性を判断するような機能が開発されているのであれば、俺が寝ていた時代より技術は進んでいると判断できる。重要な問いだ。どのような答えが出るのか楽しみだな。


「仕事は親の家業を継ぐのが一般的です。特別な才能があったとしても、別の仕事をするなんてできません」


 古代は身分が固定され、他の職業に就けないと歴史で学んだことがあったが、まさか現代に蘇るとは思わなかったぞ。進化どころか、退化しているじゃないか!


 文明レベルを抑えたい機械ゴーレムの思惑通りに進んでいる。

 この状況から人類が逆転するのは難しいだろう。


「孤児の場合はどうなんだ?」

「子育てをした大人が、人手が不足している仕事に斡旋します。親を亡くしたお金のない子供なら、非合法な仕事に就くことが多いですね」


 親を亡くしたといった言葉に、ニクシーがピクリと反応した。

 もしかしたら、彼女はそっちのパターンだったのかもな。


「具体的に、どんな仕事だ?」

「男はキメラ狩りや下水の掃除、女なら娼婦が多いですね。非合法の場合は薬物の売買とか、人体実験の被験者かな」


 きつい、汚い、危険な仕事ばかりだな。親がいないだけで、こうも扱いが変わるのか。機械ゴーレムは「人類のために働く」とインプットされているはずなのに。


 どうしても疑問を感じてしまう。

 あれは絶対に変えられない仕組みだったはず。


「あ、でも、他の都市だと違うルールらしいです」

「支配している神によって、法が違うのか」

「はい。私は商売の神様が治めている土地だったので、どんな仕事も認めていました。非合法と言うのも人間が決めただけで、神様は許可しています」


 機械ゴーレムが定めた法と人間が定めた法の二つがあるのか。人間は監視、管理されてはいるが、自治権らしき何かは存在しているようである。


「聞いた話では、薬物の売買や娼館は禁止、という所もあるらしいです」


 これまた興味深い話だな。首輪での管理まで意見は一致していたが、仕事や法については上級ゴーレムごとによって意見が変わっているのか。


 実に面白い。

 上級機械ゴーレムの思考を想像してみよう。


 商業の神と名乗っているヤツは、仕事であれば何でも認め、親と子供は同じ仕事につくことこそが幸せだ、それが人類のために役に立っていると、考えているのだろう。


 逆に風俗や薬物系の仕事を禁止しているヤツは、人間は清く正しく生きるべし。それが人類のためだ、なんて考えが透けて見える。


 長い年月をかけて、ここまで大きな嗜好の変化、いや独善的な考えに至るとは、思いもしなかったぞ。


 実は上級機械ゴーレムは感情を持っている、なんて噂もあったが嘘ではなかったのかもな。


「興味深い話だ。実際の都市を見たくなってきた」

「マスター、それはダメです」


 過保護なナータが即刻否定しやがった。安全性を重視しているといっても限度はあるだろ。ったく、地上を管理している上級機械ゴーレムじゃないんだから、もう少し自由にさせてほしいものだな。


「今は、お前の言葉に従っておこう」


 周辺の情報収集が終わったら、絶対に見に行くと決心した。ナータに俺の考えは伝わっているだろうが、これ以上は文句を言ってこない。止められないと悟って、次の手を考えているのだろう。


 視線をシェリーに移して話を戻す。


「シェリーの知っている神を教えてくれ」

「商売の神様と敵対している神様は、秩序の神様ぐらいかな? 混沌の神様とは仲が良かったと思う」


 秩序に混沌とは。人間が考えたような名前だな。個性が強い。


「神を名乗る存在は、その三体だけなのか?」

「他にもいるみたいだけど、私みたいな下級市民には教えてもらえなかった」


 また新しいワードが飛び出した。

 表現からすると上級市民というのも存在するだろう。


 下級市民は自分たちよりも良い暮らしをしている上級市民を恨み、上級市民は下級市民が暴走しないようコントロールして、富を蓄えようとする。そんな関係であれば、機械ゴーレムの管理はだいぶ楽になるはず。


 さらに密告制度もあれば、お互いを監視するようになるので、管理の手間は省ける。どうせ都市にはカメラや盗聴器は仕込んでいる……いや、首輪そのものに入っているだろうから、嘘の密告は簡単に見抜けるだろう。


 俺の想像がどこまであっているかはわからないが、大きく外れてないだろう自信はある。


「ではいつか、下級市民以外のやつに会ってみたいな」

「それは難しいと思う。上級市民は私たちを働かせ、監視する仕事だから、絶対に都市の外には出てこない」

「だったら直接乗り込むしかないな」


 きりっとした目でナータは見てきたが、俺の探求心を止める理由にはならない。

 潜在的な敵国の情報を収集するという大義名分もあるしな。


「とはいえ、まずは生活環境を整えてからだ。ナータ、二人にシェルターの説明と案内をしろ。俺は新人の様子を見てくる」


 俺の命令に従順なナータは、小さくため息を吐いてからうなずいた。


 数百年稼働していたからか、人間臭い行動をするようになったな。


 この変化も興味深い。暇になったら調査でもしてみよう。

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