第3話 受け渡し

天を覆う梢(こずえ)の間から星々がのぞいている。夜に鳴く鳥がどこかで羽ばたいた。

 茂みの中にレイリスとルサートは身をひそめていた。

 岩の前に、バッグが置かれている。月に照らされていたバッグは何だか途方に暮れているように見えた。

 目が慣れているからなんとか見えているが、あたりは薄暗い。

「本当に来るんでしょうか」

「たぶんな」

 レイリスはすっかり飽きてしまって、あくびをした。

 遠くから、時計の鐘がかすかに聞こえてきた。

 ザザッ、ザザッ、と落ち葉を蹴散らす音が近づいてくる。

 暗いせいで黒く見える馬が、木々の間から現れた。

 馬の背に二つの人影がまたがっている。

 バッグの横を通り後ろの人影が持っている棒を、地面に伸ばす。その棒についた鉤をバッグの取っ手に引っかけた。

 だが、バッグは持ち上がらない。

 重いバッグにバランスを崩して、男は地面に転がり落ちた。

 茂みから、レイリスが飛び出した。ルサートもその後に続く。

「な、なんだ!」

 乗り手が驚きの声を上げる。

 茂みの影から突然現れたレイリスとルサートに、馬が怯えていななき、前足を振り上げる。

「う、うわ!」

 その勢いで騎手も振り落とされた。

「どうした、持って行かんのか?」

 レイリスは、バッグの口を開けた。そこから金色の光があふれだす。中に入っていたのは、金の延べ棒(インゴット)が数本だった。

 この重さでは、確かに棒で吊り上げられないだろう。

「せっかくお前の要求以上の金額を用意してあげたのに。意外とつつしみ深いのだな」

 落ちた衝撃で動けない騎手に、レイリスは近づいて行った。

「おや、どこかで見た顔だ。数日前、食堂で女性にからんでいた二人組の、背の高い方。たしかナークとかいう名前だったか」

 ルサートが「あ!」と声を上げる。

「この人も、昼のリッシュとかいう男です」

 その太った男は、ルサートによって地面に押し付けられていた。

「ふん。性懲りもなく悪さをしているのか」

 鼻をならし、レイリスは男達を見下ろした。

「さあ、話してもらおうか。子供はどこだ?」

 暗闇の中に、レイリスの姿が浮かびあがる姿は夜闇に咲く華のようだった。

 抜き放たれた剣の切っ先が、ナークの眉間の前でぴたりと静止した。

「無事でなければ覚えておけ。目が奪われていたら目を、命が奪われていたら命をもってあがなってもらう」

「ち、違うんだ! 命じられただけなんだよ」

 ナークが上ずった声で叫ぶ。

「そうだ、ヴィテルだ!」

 リッシュも声を上げた。

「子供をさらってこいと命じたのはヴィテルだよ! 俺達はただちょっと身代金をいただこうとしただけだ」

「ほう……女にからむだけでなく、誘拐事件を起こすとは。しかも、よりにもよって我が領地で!」

「しかし……子供をさらってどうするつもりなんでしょう」

 ルサートが少し不安そうに言った。

「なに、これからあの二人に聞けばわかるさ。どのみち、ヴィテルはちと懲らしめてやらねばなるまい」

 レイリスは、にやりと艶やかな唇の片端をつりあげた。

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