見栄子
佐倉みづき
1
高校の時から、クラスメイトの
美栄子は狡い女で、いつも自分を良く見せようとする。少しでも小顔に写ろうとして、友人を手前に押し出して自撮り写真を撮ることがしばしば。教師の見ている前でしか掃除や日直の仕事をせず、後は他人に押しつける。だから私は彼女のことを見栄っ張りの「見栄子」だと内心こっそり揶揄していた。
当時の私は美栄子とさほど仲が良くはなかったが、ある日クラスメイト全員でSNSでも繋がろうという話が上がった。いじめ防止のためにクラスみんなで仲良くなろう、というコンセプトで、発案したのはクラスでも発言力のあるカースト上位の女子グループの一人だった。グループには美栄子も所属していたので、もしかするとグループ内で最初に言い出したのは美栄子だったのかもしれない。大方、クラスメイト相手にマウントを取りたくなったのだろう。彼女はそういう女だ。そうでなければ、私のようなカースト下位の地味な女と繋がる利点がない。あるいは、SNS上のフォロワー稼ぎにでも利用するつもりだったか。
拒否しようとも考えたが、クラス内の同調圧力に屈せざるを得なかった。いや、本当は覗いてみたかったのだ。学校では見せないSNS上の顔を。
教えられた美栄子のアカウントを覗いて、私は愕然とした。彼女のアカウントは虚飾に塗れていたのだ。
彼氏の存在を匂わせる写真に、倍率の高いアイドルのコンサートに行った写真。もちろん美栄子に彼氏がいる話は聞いたことがないし――むしろ欲しいと教室でよくぼやいていた――、コンサートだって落選ばかりだと嘆いていたのを耳にした。つまりこれらは美栄子の体験ではなくフェイクなのだ。恐らく彼氏の写真は見知らぬ男性に近寄ってそれっぽく撮っただけ、コンサートの写真は誰か適当なアカウントから拾って勝手に転載したものだろう。
投稿に一通り目を通し終えて、私は鼻で笑った。滑稽極まりない。必死になってキラキラ充実アピールなんかして、果たして本当に満たされるのだろうか?
美栄子も性格が悪いが、私も相当ねじ曲がっている自覚がある。その日から美栄子のアカウントの監視を始めた。美栄子がキラキラ着飾った投稿で優越感に浸るのであれば、私は美栄子の嘘を見抜いて優越感に浸る。卒業するまで美栄子とは片手で数える程度しか面と向かって会話をしていないが、私は美栄子の嘘を含めた全ての顔を知っていた。
高校を卒業し、進路が更にバラバラになり、仲の良い数人以外とは疎遠になった今も美栄子のアカウントの監視は続けていた。大学に入り、卒業し、社会人になったことで美栄子の見栄は加速した。タワマン暮らしで高級車を乗り回している美栄子はバッグや洋服、化粧品など高級品の数々を見せびらかすだけでは飽き足らず、頻繁に海外旅行やパーティーに行った旨を報告してくる。毎日毎日、なんて涙ぐましい努力なのだろう。美栄子の承認欲求は留まるところを知らなかった。
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