最強の兄妹は悪魔を滅ぼす

内海

第1話 咲久耶と煉也

咲久耶さくや、左の五匹は任せる」


「任せて」


 廃虚と化した街中で、二人の若者は辛うじて残っていた四階建てのビルの屋上から下を見降ろしている。

 合図とともに壁を猛スピードで駆け下りて目標へと向かう。


 小柄な少女は咲久耶さくや

 黒髪で長い後ろ髪を赤いリボンで纏めたポニーテール。身長は百六十センチ無いだろう。

 少し寂しい目つきで普段はマフラーで口元を隠しており、学校の制服だったブレザーを着ている。

 背中には日本刀を背負い、右太ももには銃のホルスターと投げナイフが三本、左太ももには拳銃のマガジンが二本入っている。

 腰に丸いバッグを付け、黒く厚みのあるミリタリーブーツを履いている。


 背の大きな少年は煉也れんや

 直毛の黒髪で横髪が少し前に向かっている。身長は百八十センチ近くある。

 メガネをかけた知的な雰囲気で学生服を着ており、こちらはミリタリーブーツではなく黒いシューズを履いている

 左わきの下にデザートイーグルが入っているため少し膨らみ、腰の後ろに長めのナイフが潜ませてある。


 咲久耶さくやは左肩から刀を抜いて落下速度を利用して何かを切り裂いた。

 ソレは悲鳴を上げる前に真っ二つになり、緑色の血を吹き出して動かなくなる。

 ソレは全身が緑色で身長は一メートル程、耳が長く身長の割に顔と目が大きい。

 服は着ておらず胴体は筋肉質だが腕や足は細い。


 一匹が倒された事で他のソレ達が騒ぎ出すが、気が付けば別の場所にいた一匹も殺されていた。

 わからない言葉で騒ぎたてるが、一匹が地面に転がっていた長い鉄骨を両手で持ち振り回し始める。


「バーカ。そんな物に当たるはずないでしょ!」


 咲久耶さくやは軽く身をかがめてかわし、一気に間合いを詰めて鉄骨を持つソレの首を切り落とす。

 鉄骨が落ちる前に鉄骨を蹴り飛ばすと、残りの三匹の胴体に命中し揃って背中から転ぶ。

 だがソレは鉄骨を軽く跳ねのけると咲久耶さくやに向かって走り出す……つもりだったようだが、すでにそこに咲久耶さくやの姿は無かった。


 三匹が咲久耶さくやの姿を探すが、ゴトンゴトンと何かが落ちる。

 一匹が音の元を見ると、二匹の首が地面に落ちていた。

 

「終わり」


 最後の一匹の背中から刀を突き刺すと、ソレは刀の刃を掴んで押し戻そうとする。

 しかし咲久耶さくやは刃を上に向け、一気に頭まで切り裂いた。

 胸から上が半分に分かれたソレは膝を付き、声を発する事なく動かなくなった。


「時間をかけすぎたぞ、咲久耶さくや


「あれ? お兄ちゃんはもう終わっちゃったの⁉」


「開始一分で終わっている」


 咲久耶さくや煉也れんやの方を見ると、七匹いたソレはキレイに首だけをナイフで一突きにされ息絶えていた。

 煉也れんやは大きめの二本のナイフを腰の後ろ、制服の中に交差させてしまう。


「さっすがだね! グレムリンなんてお兄ちゃんの相手じゃないね!」


「お前も十分強いが、まあいい。残ってる人を助けるぞ」


「はーい」


 十二匹のソレ、グレムリンを倒し終えると、二人は周囲に隠れている人を探し始める。

 まだ昼間だが、この時間ならグレムリンはエサである人間や他の動物を探して活動している。

 一か所に十匹以上いるという事は、人間か何かを見つけて追いかけていたのだろう。


「誰かいませんか。グレムリンは倒したから安全です」


「おーい、居ないなら私達は行っちゃうぞ~?」


 咲久耶さくやの気の抜けた声に反応したのか、瓦礫の下に隠れていた人が声をあげた。

 

「ここです。ここに四人居ます」


 煉也れんやが向かうと瓦礫で囲まれた場所から、恐らく四人分の声が聞こえる。

 グレムリンに追いかけられて急いで入り口を塞いだのだろう、咲久耶さくや煉也れんやが手を貸して瓦礫をどかすと、中から小さな子供が二人と大人が二人、家族らしき四人が出てきた。

 父親と母親は大きなリュックを、子供二人(男女)は小さなリュックを背負っている。


「怪我はありませんか?」


「ありがとうございます、擦り傷程度です」


「それは良かった。この近くにコロニーがあるんですか?」


「ここから一キロぐらいの場所に」


「ではそこまでついて行きます」


 煉也れんやが家族の相手をしているが、何故か咲久耶さくやは一言もしゃべらない。

 子供達は咲久耶さくやに「お姉ちゃんありがとう」と言っているが、表情を変えることなく「気にするな。兄さんがいればもう安心だ」と随分堅い口調で返事をする。


 コロニーと呼ばれる場所までついて行くと、破壊された役場らしきものが見える。

 瓦礫を乗り越え潜り抜け、建物の中心部辺りに来ると、破片に紛れて鉄の両扉が地面にあった。

 扉は瓦礫の模様が書かれているので、遠目には扉には見えない。


「私だ、開けてくれ」


 内側からロックが外されたのか、中から重い物が動く音がすると、両扉だと思った扉は片側から浮き上がり、大きな片扉だったと気が付く。

 中には銃で武装した男が三人おり、咲久耶さくや煉也れんやに銃口を向ける。


「どこのモンだ?」


「この人達は私達を助けてくれたんだ。盗賊じゃない」


「……そうか。すまなかったな」


 四人家族の父親が前に出て説明すると銃口を下した。

 扉の中は長い階段になっており、咲久耶さくや煉也れんやは四人家族と一緒に階段を降りていく。

 随分と長い階段を降りるとようやく地面が見えてきた。

 

「ようこそ、第八百七十七番コロニーへ」


 ここは地下百メートルにある空間。

 広さは約十キロ×六キロメートル、高さは約三十メートルあり、あちこちに大きな柱が立っている。

 天井には空が映されており、外との時間のずれが無いようになっている。


 この地下空間こそが悪魔から身を守り、人間が住める唯一の場所なのだ。

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