何もかも違うのに…

第1話 夢のような日に

らん、誕生日、おめでとう」


「ありがとう、けんちゃん」


 大きなケーキに、大きな蝋燭ろうそくが一本。小さな蠟燭が八本。


 蘭の、誕生日に、剣は自分の腕を振るい、大きなケーキを用意した。剣はお金持ちの一人息子で、ルックスも飛び切りだった。


「でも…いいって言ったのに…」


 蘭はイチゴを残しながら、ぽつりとつぶやいた。


「ん?」


 わざと聴こえないふりをする剣。蘭もそれに気付き、それ以上は言わない。蘭の家はごく普通の家だ。見た目も冴えない…と言ってしまえばそれまでだ。そんな蘭と、付き合う事に、剣の両親は快く思ってはいない事を、蘭は知っていた。


「はい」


「え?」


 蘭がいきなりイチゴを剣に向けた。


「いいよ。食べな」


「いいの。剣と食べたい。お祝いに、食べてよ」


「…ありがとう」


 そう言うと、イチゴを手で受け取ろうと、剣は手を伸ばした。ここからは予想がつく。だ。


「違う。あーん!」


「ありがち」


「ふふっ。いいから」


 如何にも、慣れています、的な笑みを浮かべ、剣は口を開けた。


 蘭は嬉しそうに剣一の口にイチゴを放り投げた。


「夢みたい」


 と、蘭が言った。蘭は、こうして剣と付き合えるなどとは、まさに夢にも思っていなかった。剣はお金持ちで、ルックスも良い。女子からの告白は絶えない。けれど、ルックスのいい男にありがちな、いい加減さも、軽さも無く、それ故、増々女子の人気は高まるばかりなのだ。


 そんな剣の傍にそっといたのは、幼い頃から蘭だった。子供の頃は、蘭も変な遠慮も、恐縮もなく過ごしていたのだが、育っていくとともに、目立つ存在に変化する幼馴染に、劣等感を抱くようになった。




「なんで、蘭ちゃん剣君と一緒に学校来るの?」


 小学三年生の時、初めて女友達にそう問いかけられた。その時、初めて自分が分相応ではないのだと、幼心を突き刺さした。


 でも、本当に蘭が辛かったのは…。



 蘭の誕生日を、剣と二人で過ごすことが出来ている。蘭には、本当に夢のような日だった。



 けれど―――…。

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