生徒会長だったけど異世界で奴隷にされて、仕方なく冒険者ギルドで春を売っています
酒魅シュカ
第1話 かくして東山幸は奴隷コウとなった
抵抗の素振りを見せた私を、男はカジュアルな感じで殴った。一応殴っとくかって感じ。
レスラーみたいなゴツい身体なのに、あまり痛くなかったのは、全然本気じゃなかったからだ。
この世界の人達はすぐに殴る。1発目で言う事を聞いたほうが身のためだ。この2週間で学んだ、私の悲しい処世術。ま、なんて言ってるかなんて、さっぱり分かんないんだけど。
全裸で組み伏せられて、ついにこのときが来たかって諦める。この世界に来たときからいつかはこうなるんじゃないかって思ってた。
ひたすら痛い。こんなことなら元カレの誰か、シンヤ先輩にでも処女あげてたほうがまだましだった。クズで1週間で別れたけど、女を殴るタイプじゃなかった。
喉元で首輪がチャリチャリ鳴ってて、とても耳障りだ。呼吸が苦しい。
私はほっぺたの内側をぎゅっと噛んで、ひたすら耐える。
愛情も同情もこもってない男の目が、お前は道具だって言ってる。
しょうがない。私は奴隷で、この男は私を買った主人。
だから、殴るのも犯すのも自由。私、人権なさすぎ。
言い遅れたけど、私は東山幸。名前はコウって読む。高校生。自分で言うのもアレだけど、勉強もスポーツもそれなりに出来て、顔だってそんなに悪くない、と思う。おまけに人望もあって、生徒会長もやってる。
あのときも、登校中の私は、会長おはよーなんて声に、笑って返事をしながら、正門前の横断歩道を渡っていた。
そこにプリウスが突っ込んできた。信号無視。運転しているおじいちゃんと目があって、びっくりした顔をされたのが、私の日本での最後の記憶。
気がついたら、制服のまま森の中で横になっていた。
最初はこの世界のこと、天国かって思った。でも、ほっぺたをつねったら、確かに痛い。
朝の通学時間だったことを思い出して、巻き込まれた子がいないか探していたら、盗賊に見つかった。
盗賊はわかりやすい悪人面で、剣なんか持ってて、逃げようとしたら何度も殴られた。
盗賊のアジトのことは、思い出したくない。裸にされて全身くまなく調べられたのが、割とマシな部類に入る。
それから奴隷商人に売られて、首輪をされたとき、自分は商品なんだって自覚した。そこでは私は殴られなかったし、傷も治療してもらえた。
傷が治った頃、5人の女の子たちと馬車に乗せられた。乗り心地は最悪で、女の子たちはみんな目が死んでた。
馬車から降ろされると、街の中の広場だった。奴隷商人は女の子どうしで身なりを整えるよう命令したらしく、一人の女の子に顔を念入りに拭かれ、髪をとかされた。私も同じようにした。それから、私たちは鎖で馬車に繋がれ、多分値段と売り文句を書いた木札を、首から下げさせられた。
そこで私を金貨一袋で買って、この屋敷に連れ帰ったのが、この男ってわけ。
男は私を2回も使うと、汚れを私の髪で拭いて、満足げに部屋を出ていった。
痛いし、口のなか生臭くて気持ち悪い。涙も止まらない。
「返せ」
思わず呟いた。
私の自尊心と処女返せ。
もしかして私、毎日あいつに犯されるの?
毛布を被って震えている。死んだほうがマシかもしれない。
ガチャリと無遠慮に音がして、扉が開かれた。乱暴に毛布が剥ぎ取られる。
ヒッと思わず声が漏れた。
立っていたのは女だった。私より年上だが、オバサンというほどではない。
ちょっとホッとするが、女がチッと舌を鳴らして、私はまた怯える。
女が何かを言った。
声が怒ってる。私の制服を指さしてるので、早く服を着ろということらしかった。
ブラウスのボタンは飛んでるし、ブラの金具は曲がってた。いかにもなレイプ被害者の格好の私を連れて、女は3階に上がる。
アソコが痛くて、しかもなんかが流れ出てきて、ちゃんと歩けない。そんな私を女は急かす。こっちはレイプされたばかりなんだけど。ほんと酷いやつだ。
三階の廊下には、いくつもの扉が並んでいた。そのうちの一つに、私は押し込まれるように入った。
6畳の私の部屋より狭い。そこにベッドが2つ。
その1つに、女の子が腰掛けていた。
女が何かを言い、女の子が笑顔で答える。
どうやら、ここが私の部屋らしい。
女が去ったあと、私はどうしていいかわからずに、女の子を目の端で観察した。
年は私より少し下。おっきな目と、プレーンクッキーみたいな髪色がめっちゃ可愛いゆるふわ系だ。
そして私と同じような首輪。でもそれは、がっしりとした私のと違って、薄い金属と皮で出来てた。チョーカーみたいでちょっと可愛い。
「ほんと、いい服だね」
彼女が口を開く。私のブレザーを見ている。日本語だ。
「遠い国のお姫様って噂、本当だったんだ」
「あ、あなた、日本人なの?」
私は思わず女の子に駆け寄って手を取る。真っ青な瞳が私を見つめている。
「ニホンジン? なんのことかわかんないけど、違うよ。私、言語の能力持ってるだけだから」
「能力?」
「生まれたとき、神様に1個貰ったでしょ。自分だけの能力。あなたは何持ってるの?」
私は首をかしげる。そんなの貰ったって、聞いたこともない。
でもそういう設定は聞いたことある。異世界転生だ。確かスキルとか言うやつ。
同じクラスの早川くんとか皆川くんが、スキル剣聖とか大魔法使いとか話していた。でも私は残念ながら、クール系のキャラ付けしてたから、時の洗礼を経ていない小説は読まないようにしているのとか言ってラノベは一切読んでいない。
脱線したけど、私はスキルについて考える。中学の時バレー部のエースだったとか、生徒会長やってるのがスキルかもしれない。
「バレーブノエースとか、セートカイチョーなんてスキル、聞いたことないなあ」
今度は彼女が首をひねる。今はっきりと、能力じゃなくスキルって言った。
お陰でわかったこと。彼女は日本語を話してるわけじゃなく、私が認識している言葉に自動翻訳しているだけだ。それは私が話してる言葉も同じで、彼女が認識できない概念は翻訳できない。
大丈夫。私の頭はまだ冴えてる。
このとき彼女、クロエちゃんと出会わなければ、私の物語は多分終わっていた。
自殺するか、自暴自棄になって逃げ出して、酷い拷問を受けて死んでた。
「そのままじゃ気持ち悪いでしょ。まずは身体を拭かなきゃね。ちょっと待ってて」
クロエちゃんは木桶に水を汲んで、布も持ってきてくれた。
「次からは自分で汲みに行くか、洗いに行ってね」
「わかった。ありがとう」
後ろを向いて髪を濡らして身体を拭いて、最後にアソコに触れる。炎症を起こしているのだろう。入口に触っただけで、声が出そうなくらいに痛い。広げると、血に混じって保健体育で習ったアレが流れ出る。女性の身体はとてもデリケートとか習ったんだけどな。こんな目に合うなんて聞いてない。
「初めてだったんだね」
クロエちゃんに背中越しに覗きこまれて、私はうわっと声を上げる。
「これ、掻き出したほうがいいよね?」
仕方なく彼女に尋ねる。
「なんで?」
「妊娠……したくないし」
「えー! もったいない。御主人様の子供産めば自由市民になれるんだよ。あたしは妊娠したいけどなあ」
「絶対やだ!」
私の強い言葉に、クロエちゃんはやれやれって感じに肩をすくめる。
「今ならまだティヌリを飲めば妊娠はしないけど、高いよ。あなたお金持ってるの?」
この世界にもアフターピルみたいなものがあるんだ。助かった。でもお金なんて、
「ないよぅ……」
泣きそうになる。
「わかった。コウの服取りに行くついでに、ティヌリ取ってきてあげる。5デールは貸しね」
優しい。天使みたい。
私は早くもクロエちゃんが大好きになっていた。
「水はもういいかな?」
「あ、ごめん。これも洗っていい?」
私は急いでショーツを洗う。
「可愛い下着なのに、汚れちゃったね。服汚れたのと破かれたの、御主人様に言ったほうが良いよ。弁償してくれるから。10デールくらいにはなるんじゃないかな」
「え? 弁償……してくれるの?」
「本当になにも知らないのね。肉体は所有すれど、魂と財産は奪えず、って法律にあるらしいよ。詳しくは知らないけど」
クロエちゃんに渡された服は、彼女と全く同じものだった。私の方が背が高いので、ワンサイズ大き目。
ちょっとロリータ入ってる、メイド服みたいな格好。ここでの制服らしい。
驚いたのは下着。ただの布を腰に巻くだけ。江戸時代かよ。
「はい、これがティヌリ」
小瓶を渡される。
「魔法薬だから、効き目は確実だよ」
「魔法……あるんだ」
コルクみたいな蓋を取る。ドロっとした黒い液体。臭いからして、絶対まずい。
我慢して一気に飲む。子供の頃飲んだ、風邪薬のシロップみたいな味。
「飲んだら眠くなるから、横になるといいよ」
クロエちゃんに言われるがまま、私はベッドに潜り込む。
「大変だったねコウ。明日から仕事だから、今日はゆっくり眠りな」
その言葉に私はちょっとだけ泣いた。悲しかったり悔しかったり痛かったり以外で泣いたのは、この世界に来て初めてだった。
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