第59話

ヘリから延びた魔法の光が真っ暗闇の山を照らしていく。


全部で100本を越える様々な色の線が次々とレイスやスペクターに吸い込まれていった。


俺も『氷結魔法』で攻撃する。

魔銃から巨大な青白い光が延びていく。


その光は途中で分裂し、細い針となってレイスやスペクター達に吸い込まれていき、次々と石へと変化していき落ちていった。


「どんどん撃っていけよ! MPつきるまえに回復しろ」


ヘリに乗っている隊員達皆がMPポーションをがぶ飲みしながら攻撃を続けた。


「一撃で落ちるんだな」


俺はポーションを飲みながらつぶやいた。

相手は俺の攻撃のみならず、他の防衛部の攻撃でも一撃で落ちていた。


「アストラル型モンスターは級数の割に魔法攻撃に弱いからな。それにレイスやスペクターは本来アサシン型だ。軍勢となったらただの的。下の奴らはそうはいかんがな」


本来、あのアストラル型は閉所で背後から急襲することにより最大の攻撃力を発揮するらしい。


下の第6級のモンスター達は一撃で落ちないから後回しにするそうだ。

一撃で落ちないということはダメージがばらけるからな。


モンスター達が二体の巨大なムカデのように地上を空を歩いているところを、ヘリの編隊が空のモンスター軍の周囲を回りながら次々と落としていった。


「観測班…は、いたか?」

「偵察班から報告、撃墜数は分間300体ほどだそうです」

「…一時間で一万八千か。間に合うか?」


阿蘇山に到達する前にレイス達は倒せそうだ。


このままうまくいけばだが…。


「やれるかな…」


だがそのつぶやきがフラグとなる。

攻撃を受けていたレイスの一団がヘリの編隊へと向かってきた。


「レイスがきたぞ」

「防衛部も見えているだろ。速度を上げるぞ」


そういう前に、自動的に編隊の速度が上がった。

レイスは先頭のヘリに追いつけないとみると、後のヘリに向かう先を変えた。


「ッチ、最初の奴に食いついた奴が、後ろにきやがる!」


比較的後ろにいる俺たちのヘリに食いつこうとする。

速度がこちらの方が速いが、追いつかれそうだ。


俺はそちらに向けて連射する。

放たれた氷結魔法は途中で分裂し、無数の針となって攻撃していく。

レイスの群の大半が無数の針を受けて塵とかしていった。


俺やほかのヘリからもそちらに集中放火する。


「次々くるぞ!」

「食べ放題無料とは気前がいい!」

「余裕だな、おい!」



だが、次々とやってくるレイスの集団に、攻撃が間に合わなくなっていく。

仲間の死体というか魔石を乗り越えたレイス達は怨念にまみれた百面相を見せながら移動し、後方のヘリに急接近する。


ヘリ達はよけるが、一つ回避しきれなかったヘリが出てきて、一瞬でレイスまみれとなった。


爆発。


ヘリが墜落した。


そこから脱出したダイバーにもどんどんレイスが絡んでいく。

飛んでいく腕が見えた。


「あ…」

「おい、撃つのをやめるな!」

「あ、ああ」


再びレイス達へ攻撃をする。


あんな簡単に落ちるのか…。

モンスターにとっては鉄の塊はただの紙切れか。


「防衛部から編隊を4つに分けると」

「了解した」


そして一つの蛇が4つの蛇に変わっていく。


四つに分かれた蛇に対して、レイスも四つに分かれた。


「お前は攻撃範囲が大きい。同士討ちに気をつけろよ」

「ああ」


攻撃を再開した。

ヘリ達が敵の攻撃を避け、なおかつ味方の攻撃が当たらないようにあちらこちらに移動し続ける。


四つの蛇によりはかれるブレスに、アストラル型モンスターは次々と落ちていき、数を減らしていった。


だが敵もやられっぱなしではなかった。


「なんだ?」


急に防衛部のヘリが一機爆発した。爆発の光が体を照らす。


敵の群には追いつかれていなかったぞ。

落ちていくヘリをみていると、隣からゴキリと音がした。


音の方をみると操縦者の首が180度横に回転し、さらに180度回転して、縦に360度回転、膝上に着地を決めた。


「操縦者の心配停止を確認、自動操縦モードに移行します」


「は?」


「ッチ」


操縦者を攻撃していたスペクターを那須が即座に打ち抜いた。


スペクターに殺された?

一撃死? ダイバーがか?


俺は首がなくなった死体をちらりとみた。


「…彼はダイバーじゃなかったのか」

「全員をダイバーでまかなえるわけがないだろ。代わり入れ!」

「了解!」


隊員が急いで死体をどかし、一人操縦席にはいる。


「防衛部に連絡! 奴ら待ち伏せしているぞ!」


だが、連絡をすると同時に、また一つのヘリが落ちた。


「くそっ」


防衛部のヘリから照明弾がいくつも昇った。


モンスター軍からはずれて上空で待機しているレイスが何十体と見える。

そしてその中にひときわ雰囲気が違う奴が。


死神のような鎌を持ち、こちらを睥睨しながらレイスやスペクターに指示を出していた。


光がないと到底見えないような薄さ。

だが、明らかに異様な雰囲気。


「あれはなんだ?」


俺が言うと那須が声をあらげる。


「あれはレイスキングだ! 編隊から離れるよう連絡。オレらだけでやる」

「了解」


あいつと組み合うのか。


「撃つぞ」と俺はレイスキングに照準を定める。

「たくさんいるんだから遠慮するな」


攻撃を仕掛けると、レイス達を指示していたレイスキングは流石に一撃では落ちず、こちらに向かってきた。


ヘリはそれを確認すると集団から離れていく。


「あんなのとドッグファイトなんてしたくないが」と那須。

「…俺たちがやらなきゃ全員落ちるってことか」


ヘリはレイスキングから距離をとりつつ攻撃する。


魔法狙撃の青白い閃光が走り、他の隊員からも攻撃が入る。

レイスキングはそれを見てから回避した。


ちょっと距離が遠いな。


「この距離じゃ当たらないぞ」

「近づけばこちらが死ぬだけだ」


そりゃそうだ。


レイスキングは追いつけないとみると、薄くなっていった。

あたりは暗いために一瞬で見えなくなる。


「透明化?」

「サーチライト!」


光を向けても、レイスキングの姿は見えない。


「見えないぞ」

「面倒な…」


だが、そのとき上から何かがきた。

何か。


俺はとっさに『上級守護術』を起動する。


体がヘリの上空に飛んでいた。

盾を起動し勘で守る。


盾と鎌が当たる硬質な音。

レイスキングの持っていた鎌だ。


「あっぶね!」


こんなの食らっていたらヘリはまっぷたつだ。

盾でレイスキングの鎌をかち上げ、右手を向けて至近距離で魔法を連射する。


連射に耐えきれずレイスキングは消滅していった。

魔石が俺の手に落ちる。


妙な感覚。


「あれ、これ吸収で、ぶへ!」


ヘリの回転翼!


落下した俺の体がヘリに巻き込まれ、不気味な風の音が耳に響いた。


「やばばばばばばばば」


うえ、気持ち悪!

バターになっちゃう!


レベル99は死にはしない。

ただただ、ぐるぐると回転する。


ヘリが俺が回転翼についた異物によってうまく飛べなくなり、左右に振られ、俺の体は吹き飛んでいった。


モンスター達の中へと。

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