第46話

あの後、キッチンで二人が密談していた。


「どうしますか?」

「どうしようかねぇ」


紬と杏奈だ。


二人は旭の居場所を知っていた。

旭が持って行った盾にはGPSがついていた。


以前あった盗難に備えて、全ての装備の位置が分かるようになっているのだ。すでに調査員も派遣している。


だが、遥はそのことを失念していた。

なんというか、明らかに別のことに気をとらわれているのが分かった。


「まぁ、いいこと何じゃないの?」


紬が遥の様子を思い出しながら言う。


「何を言いますか? 私たちは神々廻の人間なんですよ?」

「とはいってもねぇ。今まで浮ついた話のなかったお嬢にそういう話が出てくるのはいいことだよ」


紬は言わなかったが、遥は男っ気がなくいつも女性のみのパーティといたものだから、そっちのケがあるのではないかと心配していた。


「それが所謂どこぞの馬の骨でなければよかったんですがね」

「そりゃそうだろうけど」


神々廻の財産を狙っていろんな人が神々廻の人間に接触してくる。

遥も例外ではなかった。

大概の人は神々廻の使用人が接触すらさせていなかった。


また遥に縁談も来ていたが、これは遥が一回会って断るを繰り返してた。

そのうち縁談自体を断っていた。


「それで身辺調査は進んでるんですか?」

「まぁ、一応あれだけのレベルを持つ違法ダイバーだしな。一応調べているよ。」


具体的なレベルを旭は言っていなかったが、ボス戦の時に言っていたHPは9000台。

これはレベル90台を示していた。それも後半。


あり得ない数字だ。

だがあの身体の力を見れば予想できた数字でもあった。


「それで、どこのひも付きですか?」

「今のところ確認されていない。まぁまだ数日だからな」

「そうですか」


あれだけのレベルがどこの組織にも属していないとは考えにくかった。


「…通報しておきますか?」

「どうしようかね。正直悪い奴には見えなかったよ」

「それとこれとは話が別でしょう」


杏奈は反対だった。だが紬には考えがあった。


「まぁそりゃそうだが。あれだけの人間をうちの傘下におければ、それは得だと思えない? 最近、ちょっとうるさくなってきたでしょ?」

「…それはありますが、だからといってお嬢様に近づけるのは」


「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」


遥がいつのまにかそこにいた。

杏奈は一瞬で表情を変えた。


「お嬢様、どうしました? 莉奈を一口で満足させるケーキの作り方に興味でも?」

「おや、私自身が調べてもいいんですよ?」


遥はニコニコの笑顔だった。


「…」

「…」


杏奈は顔が怖がり、紬は苦笑いをしていた。


確実に聞かれていた。

そしてこの笑顔は怒っている。


「…条件があります」

「聞きましょう」


遥は二人を無碍にすることはない。

一応、この二人が自分のことを気遣っているというのは理解していた。

その上で反抗することもあるが。


「まず、今回のダンジョンの攻略を終わらせて下さい。気持ちが浮ついていないということを証明して下さい。」

「もちろんですとも。何故、旭と気持ちの浮つきが関係しているのか私には理解できませんが」


遥が胸を張っていった。


紬の苦笑いがさらに強くなった。

杏奈がせき込む。


「それと会いに行くのは私たちだけです。私たちが信用できないと思った際は会わせることはできません」

「だめです。私自身が会いに行きます。これは決定事項です」

「お嬢様」

「旭は恩人です。なら本人が会いに行くのが筋ではありませんか」

「…わかりました」


これは動かないなと判断した。


「それと、会いに行ったときに、私が信用できると判断するまでブラックオーブのことは秘密です。そして信用ならないと判断した場合はブラックオーブはそのまま没収、それに加えて通報します」

「…信用。確かにそれはそうですね。杏奈達が信用できない状況はよくありません。分かりました。」


遥はこれまで一緒にパーティメンバーを思い出していった。

実際には紬と杏奈は遥が想像している以上のことも想定していた。


だが遥は旭を信用しているようだった。


「そんなに彼を信用できますか?」

「もちろんです。旭は私の身を守ったのですよ」

「…けどそうなった原因は彼ですよ」

「確かに。ですがあの状況、私を守らずとも勝てたはずです。そして私を守る行為は命がけでした。信用に値します」

「…」


とりあえずこの話を続けると杏奈にとってまずい展開になりかねないのでやめることにした。


「最後に、スキルオーブを使って下さい。これがないと次のダンジョン攻略に支障がでるかもしれませんからね」

「…分かりました」


そして意を決したように遥はアイテム袋からブラックオーブを取り出した。


遥は深呼吸をしながらブラックオーブを見つめる。

そして目を閉じて祈るようにつぶやく。


「大丈夫。これは私のもの。旭のものではない」


そして遥はブラックオーブを消費した。

ブラックオーブが粉々に砕け散り、光が遥の中に入っていく。


ステータスをのぞく。

そこに新たなスキルが表示されていた。


『英雄化』


…。

遥はうなだれた。


「これ絶対に旭のですね…」






数日後、『リュミエハーツ』は第7級のダンジョンをクリアし、記録を更新した。

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