第47話

あれから二日後、俺は東京の指定された場所に向かった。

駅前広場みたいなところだ。


東京久しぶりにきたな。めっちゃ人いるわ。

さて、どこかな?


「ああ、いた」


当たりを探すと目立つ6人組がいた。『リュミエハーツ』だ。


そして周囲に遠巻きに見ている人達がそこそこいた。

彼らは近づかずにひそひそと話している。芸能人かな?



「こりゃ、指定されていてよかったな」


周辺の人だかりの間を割って入り、近づいて遥に声をかけた。


「どうも」


話しかけると、遥はこちらを見て、俺の目をじっと見た。


「…お名前は?」

「旭だ」


遥はちらりと紬を見た。紬はうなずいた。


「今日からよろしくお願いしますね。旭さん」

「ああ、よろしく」

「いやぁしかし、すごいねぇ」


紬がまじまじと俺の顔を見た。



「指定はこれだけでしたよね?」

「そうだよ。うん、これならいいね」


今日の俺は女性の姿をしていた。

連絡の時に、向こうからそう指示されたのだ。


男じゃなくてよかった。マジで。


遠巻きに見ている周辺の人だかりを見ていれば、スクープになっていた可能性すらある。意識しすぎか?


しかし、この顔を作るのは大変だったよ。

今回の顔はオリジナルだ。


女性になること自体は難しくない。コピーするだけだからな。

だが、ひょっとしたら写真撮られる可能性があるんじゃないかと思ってオリジナルの顔を作ったのだ。


姿見られるくらいならいいのだが、写真の可能性はまずい。

後で、コピー元の人が『あれ、何で私ここにいるの?』っていう話になる可能性がある。


すると大問題だ。主に俺が。

そんなこんなでオリジナルの顔を作ることになった。


しかし、顔の調整が大変だった。

ひたすら鏡とにらめっこしていたよ。


既存の顔を下手にいじるのは難しい。

ステータスもそうだが、ちょっとした変化をつけるのは逆にしづらいんだよな。


一時的にできても、維持が難しい。

ずっとつま先立ちで立っているような感じになる。


それで何とかできないかとあれこれ試行錯誤した。

すると、女性をベースにいろんな人を適当に混ぜた顔にしたら、意外と簡単にできることに気づいた。

下手に調整とかするのがいけないんだ。


俺が持っている擬態対象はほぼ男だが、男でも女性顔の人もいるしな。

それらを混ぜ合わせたらいけたよ。


うん。普通にかわいいんじゃないか?

ちなみに瞳だけは自分のにしておいた。




しかし…。


なんか遥は俺のことをヒーロー視していたけれど、俺がいろんな人を禿にしていたことを知ったらどう思うんだろうな。


遥ってダンジョン神教か?

禿にした件、あそこだとめちゃくちゃ神聖視されてるらしい。



…まぁ、ばれたら。そんとき次第だな。






遥と話していると横から別の子がきた。


「へぇ、あなたが旭さんかぁ。本当に顔が違うんだねぇ」

「こら、瑞樹。あまり大きな声で言ってはいけません」

「あ、そうだった。ごめんごめん」


この子が盾の子の天河瑞樹か。

まじめそうな雰囲気の遥と対照的でムードメーカーっぽい雰囲気を持ってるな。


しかし、女性にこうまじまじと見られると居心地悪い。


「私は天河瑞樹、よろしくね!」

「…鏑木旭だ。よろしく」


う、眩しい…


このあふれ出る陽キャオーラがやばい。

遥の笑顔はおしとやかな笑顔だが、瑞樹の笑顔は見るもの全てを照らすような笑顔だ。


陰キャの俺は浄化されそうだ。





「旭にはこれを渡しておきます」


俺が浄化されそうになっていると、遥が何やらカードとポーチを渡してきた。



カードの方は…。

なんだろう…。 『特殊護衛員』?


そう書いてある。それに簡単なプロフィールとかも。

多分これ、遥の護衛員の証明するためのカード…か?


「ダイバー免許証の代わりです。準1級相当の免許証としても使えますよ」

「へぇ、これが何とかすると言った奴か…。けどこれ写真ないけど」

「はい、今とりますね」

「え」


そして杏奈がスマホをこちらに向けてパシャリ。

まじか。こんな雑な。えー…。


「もう適応されたのでは?」

「え? あ、本当だ。写真が浮かんでる」


カードの顔写真が写る場所に、俺の女性バージョン顔が出てきた。

それに背景もない。うまく切り抜かれてるなぁ。


「こんなことできるんだね…」

「一応、うちなら色々できますね」


そっちじゃなくてカードに適応された方だったんだが…。

とはいえ、これで俺も免許証持ちか。仮だけど。


けどシェイプシフターに強制の発信器はいらないのかな?

あえて聞かなくていいか。


ん?


「名前が…」


鹿場コノカ?


しかばって読むのかな?


紬が言う。


「それが今の君の名前だ。そのカードを持ってお嬢の護衛をしている間は神々廻が身分を保証する」


神々廻の身分保証って相当やばいような?


「…なんか、めちゃくちゃすごいカードじゃない?」

「そうですか?」


遥は少し考えたが、杏奈がすぐに否定した。


「そうですよ。おい、下手に使うなよ。すぐに分かるからな」

「はい…。 わかりました」


何故か新しい名前も決まりました。


どうも、鹿場コノカちゃんです。よろしくね。

まぁ多分そう名乗ることはないとは思う。





「そしてこの袋というかポーチは?」

「アイテム袋ですね。ポーチの中にアイテム袋がはめられているものです」

「おおー。これか」


ダイバー定番商品のアイテム袋か。


「それはまだ小さい奴ですが。今回必要な物はすべて入れてあるので、使って下さい」


必要なもの、すべて…。


「…何から何まですまない」

「いいんですよ」


遥がめっちゃ笑顔だ。


…やばい。

この子は男をだめにするぞ。

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