第44話

その後、しばらく二人で話していると紬達が帰ってきた。


「たっだいまー!」

「ただいまってあなたの家じゃないでしょう」

「まぁまぁ固いこと言わずに、飲み物買ってきたぞー。それにつまみも」


そういってビニール袋を差し出した。

なんかめちゃくちゃ買っていらっしゃる。


「あら、ありがとうございます」

「…ありがとう。って、つまみって」


紬が買ってきたのは半分以上がお酒だった。

そして本当につまみもある。


「旭君は飲める年だろう?」

「まぁそうですけど。というか、飲み物買ってくるで酒買ってくるとは思わなかったですよ」

「そう? 酒とは飲み物だろう」

「いやそうじゃなくて」


この人すでに酔っているのか?

無限に続きそうな会話が繰り広げられそうになると横から杏菜が入った。


「お嬢様、そろそろ時間ですよ」

「あら、もうそんな時間ですか?」と遥。

「そうなの?」と紬。


え、なんか宴会でも開きそうな人が目の前にいるのに?


「ええ。次の予定があります」

「…わかりました」


だが一人納得していなさそうな人がいた。


「ええー。これからが楽しい時だったのに」と、紬。

「紬? そろそろ禁酒させましょうか?」と杏菜。

「う・・・。わかりました。旭君、これ全部あげるよ」と、紬。

「…どうも」と、俺。


弁当まで入ってるな、これ。

ちょっとありがてぇ。


「いやー本当は赤飯買ってこようと思ったんだけどね」と、紬。

「紬!」と、杏菜。



…。

まぁ、気のせいだろう。


遥は二人の会話を気にせず、俺に聞いてきた。


「じゃあ、連絡先教えてもらえますか?」

「お嬢様、そこは私が」と杏奈。

「何故です? 必要でしょう?」

「お仕事の連絡はいつも私が受けているではありませんか。それとも他に何かあるのですか?」

「い、いえ。当然ありませんよ。そもそも何かとはなんです?」

「気のせいならば別にいいのですよ」


…。

突っ込まないぞ、俺は突っ込まない。


突っ込んだ瞬間に杏菜の怒りが飛んできそうだ。



「おい、連絡先をよこせ」

美人な顔に似合わない汚い言い方聞いてきた。

かつてこんな連絡先の聞かれ方したことないぞ…。


「杏奈! そんな言い方はないでしょう」

「失礼しました。クソ旭様、連絡先をよこせ下さい」


丁寧な罵倒をどうもありがとう。

本心漏れてるぞ。


そして連絡先を交換する。


「じゃあ旭、今日はこの辺で」と遥。

「ああ、またな」と俺。

「またなー」と紬。

「次は骨になってこい」と杏菜。

「杏奈!」と遥。



そういって3人は去っていった。

扉がバタンと閉まる。


俺の部屋の人口密度が平常時に戻った。


……。

頭をカリカリとかく。


「鈍感系主人公入門講座ってネットにあるかな? 料金いくらだろう」










「で、大丈夫そうですか」

「調査結果でも怪しいところはなかったよ。足取りも追えたしね」

「じゃあ、本当に彼の言うとおり、急に一般人が力を持ったということですか?」

「さぁ? けど嘘はついていなかった。私たちが来たときに、どこかに連絡することも、逃げ出すこともお嬢を誘拐しようともしなかったね。襲うかとも思ったんだが」

「襲っていたら殺していましたよ。お嬢様から手を握ったときは思わず爆発させようかと思いました」

「それお嬢も死んじゃうじゃん」

「そもそも二人っきりにする必要、あったのですか?」

「あれはお嬢へのサービスだよ。実際には保護者のホームビデオ付きだけど」

「…映像、あとで回してください」

「いいよ。しかし本人は気づいていないだろうけど、初デートの行き先がダンジョンの遺跡とはね。お嬢らしい」

「…ッチ」

「そう怒らない」

「シェイプシフターであるのは事実でしたね」

「そうだねぇ。本名聞いた時に嘘の判定はなかったから、あれが本当に本人なんだろう。調査の姿とも一致する。味方になればだいぶ強みになるねぇ」

「どうしますか」

「とりあえず、お試しカード出しとこうかな」

「分かりました。…では部隊を下げますか」

「そうだねー。あ、そうそう」

「なんです?」

「彼、児童養護施設の出身だったよ。少しうちも支援したことのあるところだ。縁があるね」

「…いやな時代になりましたね」

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