第43話

沈黙。

というかどうするか?

何話せばいいんだ? 


ご趣味は?

お見合いかよ。


ああ、そういえばあれがあったな。

さっきニュースで流れてたことだ。


「あー。そういえば、最高級数更新おめでとう」


「ありがとうございます。あれは…。」

「ん?」


遥は何かを言いたいが言えないというような表情を見せた。


「いえ、あれは運良く攻略のきっかけが見つかりましたので」

「…へぇ。それは…よかったね?」

「ええ、よかったです」

「きっかけって?」

「それは、内緒です」

「あ、そう」


内緒らしい。

お嬢様は内緒が多い。


「…」

「…」


おいいいいい。どうすんだこれ! 会話止まったぞ!

何話すんだよ。天気のことでも話すか?


俺が迷っていると遥から話しかけてきた。


「あなたは、遺跡に行きたいって言ってましたけど。まだ行きたいですか?」


遺跡かぁ。いやいいや。


「んー。どうだろう。正直ちょっとな。さっきも言ったがあんなイレギュラーがまた発生したらと思うとね」

「…なるほど」

「そういえば、『リュミエハーツ』は今度の遺跡の調査に参加するんだって?」

「はい。あのスカイツリーの円環の原因を調査しなければいけませんからね。見込みは薄いですが、何もしないわけにもいきませんし。」


まじか。

というかこの人達はあの後もダンジョンに入って攻略してるんだよな。

あんなボス戦で、彼女たちは何度も死にかけたのに。


「すごいな」

「…なにがですか?」


「いや、あんだけ死にそうな目に会ったのに、まだダンジョンに潜れるなんて。怖いとか思わないの?」

「…そうですね。確かに怖いです」


やっぱ怖いか。そりゃそうだよな。


「何で潜るの?」

「日本はまだまだスタンピードが発生していますよね」

「そうだね、一月くらい前にも起きていた。」


1、2か月に一回くらいは発生している。

今回は規模が小さくて100人くらいの犠牲ですんだらしい。

他の国なんてもっと多くの頻度発生している。


「それにダイバーの犯罪もあります。各地で堂々と暴れているダイバーや隠れて地域を支配しているダイバーもいます。」


…え。そんな地域を支配しているダイバーいるの?

初耳なんだけれど。まぁけど、いそうといえばいそうか…。


「ダンジョンやダイバーに人生が振り回されている人が今もなお多くいます。そんな人の手助けになりたい。そのためにはもっと強くならないといけません。中途半端な力では、意味がないですから。だからダンジョンに潜り続けています。」


遥は確かな思いの元、言っているように見えた。


「そうか。君は強いね」

「? まだまだですよ」


ステータスの話じゃない。

しかし、人の助けになりたい、か。

俺にはできそうにはないな。


「旭、今日は本当は勧誘に来たんです。杏奈は認めていませんが」

「勧誘?」

「はい。今度の遺跡探索。それに一緒に来てもらえませんか?」


…はい?

ああ、それで最初に遺跡に行きたいか聞いたのか。


「けど、俺が入ってもなぁ」


あんなフラグが立つかもしれないんだぞ。

ちょっといやなんだが。


「あなたの力ならより高いランクの遺跡までいけます。ひょっとしたらあなただけが調べられることがあるかもしれません」

「あの裏ボスみたいなのが出てきても保証できないよ?」

「なら私たちと一緒の方が安心ですね」

「巻き込んで死ぬかも?」

「まず人のことを気にする方なら、一緒にいても安心です」


そういう訳じゃないんだけど。

自分が原因で人が死んだら気が重いだけだし…。

最初の円環の件もそうだな。


あんまし乗り気じゃなさそうな表情を見せる。


すると、遥が手を握ってきた。


「私の助けになってもらえませんか?」


う…。


めちゃくちゃ真剣な表情でこちらを見ている。

その瞳が心を覗かんとばかりに。



いやいやいやいや。これは断った方がいいぞ。

普通に死ぬかもしれないんだし。


というかさっきから遥はなんていうか誤解している。

俺をヒーローかなんかだと思ってるんじゃないか?


そんな人間じゃない。

俺はちょっと小金を稼げればいいという感じの一般人なんだ。


断る。そう、断ろう。

俺はNOといえる強い男だ


「…d」


『遥を守って』


そんな声が頭のなかにうっすらと入っては消えていく。

「…だ」


『遥を守って』


「…わかった」


何故かYESと答えていた。


よえええ。

俺はよええええええ。何故だああ。


「ありがとうございます。助かります」


すげーうれしそうな顔。

もうキャンセルきかなそうだ…。

俺はちょっと申し訳ない顔だ。


「…まぁ、そっちが死なないように頑張るよ」

「いいえ、遠慮せずに頼りにしてください」


遥が胸を張って言う。

あんましなことを言うので、俺は苦笑いになった。


「…まぁいいけど。というか、そうなるとダイバー免許取得しないといけないのか?」


そういえばそうだ。

あら、本当にまずくない?

発信器はつけられたくないよ。


「そこは私の方で何とかするので大丈夫です」

「…何とか」


ハイソな伝手でもあるんだろうか?

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