第22話

side リュミエハーツ



パーティ『リュミエハーツ』一行は【茨城霞ケ浦ダンジョン】を訪れていた。



ダイビングスーツを来て、ダンジョン協会のボートで入り口まで向かい、その後はステータスの宝珠の間を抜けて、湖を一瞬で抜けていく。


水面から出ると、アイテム袋から絨毯じゅうたんを出して、水面の上に乗せる。

一同はそれに乗った。


ダンジョンでゲットできる『魔法の絨毯じゅうたん』だ。

結構レア度が高い。その割に人気が微妙だ。


30代のダイバーには古臭く思えるらしい。

だが10代には逆に新鮮だと思われていた。このパーティもそうだった。


そして『魔法の絨毯じゅうたん』は宙へと浮かんでいった。


「へぇ、ここってこういうダンジョンだったんだね」


パーティのタンク役の瑞樹が『魔法の絨毯じゅうたん』から見える景色に感心しながら言った。

彼女たちからはダンジョンの全景が見えた。


ダンジョンは湖の中に島があり、そしてその島の中にまた湖があるという構造になっていた。


「知ってて来たんじゃないですの?」


リーダーの遥が同じく島を見ながら言う。


「砂浜と海があるってことは聞いてたんだよ。ただ、もうちょっと洞窟から見える海岸みたいなのを想像してた。」


瑞樹は顔に指をあてて思い出しながら言う。


「いい風景だねぇ」一番年上でサポート役の紬がいう。

「いい眺め」魔術師のエマがぼそりという。

「抹茶ドーナッツみたいだな。ああ、食べたくなってきた」早速、軽戦士の莉奈がアイテム袋からドーナッツを取り出した。

「タオルをどうぞ」回復役の杏菜がささっと出す。


「場所はどこにしますか?」

遥が瑞樹に聞いた。


「ん~ 森が近い方がいいかなぁ。着替える場所も欲しいし。あそことかどうかな?」


瑞樹は島の一角を指さした。砂浜の幅があそこだけ狭かった。


「よさそうですね」


正直遥には砂浜でのバーベキューがどういうものかわからなかったので瑞樹に任せることにした。


「じゃあ、けってい! エマ! ここのダンジョン砂浜の中にモンスターがいるから、一掃しちゃって」


「任されよ」


そういって、エマはアイテム袋から小柄なエマの背丈の届かんばかりの大仰な杖を取り出した。

装飾の量がすごい。ただどこかチープっぽくもあった。


「そなたは大いなる創り手、全てを生み出した母なる大地、不肖の子孫の願いを、今聞き届けることを願わん、不浄を飲み込み塵とせよ! エンブレイス オブジ アース!」



そういうと瑞樹が指さした場所に向けて、エマは杖を振るう。



すると砂浜が波打つように大きく上下に隆起し巨大な地響きが鳴る。

そこにいたダンゴムシやワームは一度砂浜から飛び出ては飲み込まれていき、圧力をかけられて塵となっていった。



「今回の詠唱は85点かなぁ」紬が言う

「世人に理解されぬことは、承知の上」


エマは杖を肩に乗せながら言う。

瑞樹は飲み込まれたモンスターたちを見て大丈夫そうだと判断した。


「いいかなぁ。じゃああそこに向かうねー。 あ、エマ、土台もよろしく」

「承知」


そういってエマは再び杖をふるうと砂浜の一部が平らに固まっていき、足場が出来ていく。


「ありがとう、着地させるよ」


魔法の絨毯じゅうたんは平らになった足場に向かい、ふわりと着地した。


「じゃあバーベキューの準備しようか」瑞樹が言う。


「食前の運動にちょっくら周囲のモンスター間引いてくるわぁ。エマ、一緒に行こう」

「いざゆかん」


莉奈はアイテム袋から簡単な装備を出して森へと向かう。

エマもそれについていく。


「私はバーベキューの準備しますね」


杏菜が率先してアイテム袋からバーベキューの準備品を取り出す。


「私はお酒の状態を確認するためにちょっくら試飲を」

「紬は食品を切ってください」


紬がさぼろうとするのを杏菜が止めた。


皆が何かしようとするので遥もそれを手伝おうとする。


「では私は」

「遥は水着に着替えてきて」


瑞樹が遥が手伝おうとするのを止めて、着替えてくるように言う。


「はい? 私も準備を」

「いいのいいの。ほらほら、ゆっくり森の中散策でもしてから着替えてきて」


今日は遥のための休暇だからね。


瑞樹はそんな言葉を飲み込んで遥の背中を押した。


「いいんですか?」


「うん」


「…わかりましたわ」


怪訝そうな表情をしながらも遥は瑞樹の意見を飲んだ。


「あ、そうだ。莉奈たちが先に行ってるから大丈夫だと思うけど、森の中にゴブリンいるらしいから気を付けて」


「今更ゴブリンなんて片手でも倒せますよ」


「はは、そうだね」


遥は森の中に入っていった。


木がまばらな森なので、歩くのに苦労しない。

草が多く足を切ろうとするが、ステータスの高さからあまり気にならない。




しばらく、森の中を裸足で歩く。

地面にある木の葉を踏むたびにサクサクとした音が聞こえる。


たまに触れる土がひんやりとしている。

風による木の葉のかすれ音が耳に気持ちいい。



…そういえば、ここ最近ゆっくりした時間を取ったことなかったですね。

いつもダンジョンの攻略のことばかり考えていました。


もっと早く、もっと強くならなくては…。

今でも予期せぬスタンピードが発生するのだ。


被害にあうのはステータスを持っていない人達ばかり。

その人たちを救うために、もっと強くならなくては。


あの子のような犠牲を出さないように。


そんなことばかり考えていた気がする。


…。

けど、たまにはこういう時間もいいですね。


森を楽しむことにした。






しばらく歩いていると、先ほどの瑞樹たちの姿が見えないところまで来た。


「ここらへんで着替えときますか」


瑞樹からもらった水着が入った袋をアイテム袋から取り出す。

水着が入った袋を取り出し、開けてみる。


「こ、これは…」


袋から出てきたその水着は面積がものすごく小さかった。

少しずれただけで隠しているものが見えてしまうほどの。


「瑞樹…。 絶対にこれを着せたいがために誘いましたね」


また瑞樹のいたずらですね。

あの子はこちらが反応に困るようないたずらを結構する。


…正直こんなの着れない。

はぁ…。


遥はため息をついて、アイテム袋から別の水着を取り出した。

まぁ、この水着を着なくて何か言ってきたら瑞樹に着せましょう。

文句は言わせません。



そして着替えようとそそくさとダイビングスーツとインナーを脱いでいくと、がさりと音がした。


「ん?」


音がしたほうを見ると、そこには見知らぬ男がたっていた。


「え?」


遥も驚いていたが、むこうも驚いているようで、お互い固まった。


そして遥は自分が今裸になっていることに気づいた。


「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

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