第2話
仕事後、へこんだ車を涙目で運転しながら帰宅した。
いやぁ、仕事中は大変だったよ。
ステータスを得た時の興奮がまだ残っていたものだから、ついうっかり力が入って仕事で使うものを壊してしまった。
レベルが上がっても、力は普段はそれほど大したことがないが、魔力を身にまとうような感覚をするとステータス通りの力を発揮するらしい。
興奮した時に思わず身にまとっていたのだろう。道具が手の形にべっこりとへこんでしまった。
いやぁ、うっかり、うっかり。
だがそれを見た会社の仲間たちがビビッて今日一日ずっと俺から離れていたのが印象的だった。
あれなら明日も話しかけないだろうな。距離感がガッポガッポだ。悲しみもガッポガッポ。
…まぁ、これは時間が解決するだろう。それはいい。
それはさておき、棚ぼたで非常に高いステータスを手に入れたけど、どうするかな。
一番いいのはこのままダンジョン稼業に転職して大金を稼ぐってことか。
ダンジョン稼業は儲かる。
指定のダンジョンのモンスターを一定数倒せば国から討伐報酬が出るし、ドロップ品もうまい。
ダンジョンでは相手を倒すと基本的に魔石をドロップする。
この魔石が新エネルギーとして利用されており、そのエネルギーを利用した新製品がつくられたり、様々な品の素材としても使われている。
魔石と金属を合わせた武器なんかも作られてるんだよな。めちゃくちゃ高いが。
低ランクダンジョンなんかの魔石はかなり安いが、高ランクダンジョンは浅い層でも高額買取中だ。
得られれば一気に金持ちになれるだろう。
ダンジョンに潜る実力は流石にこれだけのステータスがあれば余裕だろう…。
偶然スライムの魔王ををひいて経験値ガッポガッポ、そしてお金もガッポガッポ。
今度のネットの名前はガッポガッポで決定だな。ガッポリでもいい。そっちの方が呼びやすそうだ。
いや、その前にとりあえずスキルを検証するか。
俺はもう一度ステータスを確認する。
鏑木旭
レベル:99
HP :9516/9516
MP :914/914
力 :922
速力 :601
体力 :807
魔力 :943
運 :999
所持スキル:王級完全擬態
称号:魔王を最初に倒した者 第1限界に到達せし者 魔王討伐者
というかスキルが完全擬態だけか。
スキルが完全擬態だけ? 完全擬態だけって。
これ、どうやって攻撃するんだ? スキルなしだと有効な攻撃手段がなくない?
殴るのか? いやまぁ確かにこれだけのステータスがあれば低ランク帯ならいけるとは思うが。
スキルの詳細ってどうやって調べるんだろう。
俺は試しにステータスのスキルのところをぽちっと押してみた。
するとステータスの上に説明欄がでてきた。
おお、押せば説明が出るのか。新発見。
王級完全擬態:
情報を得た対象に擬態する。
情報は摂取することで一定確率で取得できる。
情報取得率が高いほど擬態率を高めることができる。
情報は最低20%以上ないと擬態できない。
擬態率を高めるほど対象の姿、体形のコピー率が上がる。
王級はステータス、スキル、本能、知能のコピーまで可能とする。
最大擬態率100%
現在可能な擬態対象:スライム(100%)
…なるほど?
摂取? 摂取ってなんだ? 食べるのか?
え? これ相手を食べないと擬態できないの?
それに一定確率ということは、成功するまで何度も食べないといけない?
ファンブル要素があるってことか?
え、えー。
食べるのかぁ。そりゃスキルを持っていた元々のスライムだったらなんでも食べるんだろうけどさ。
人間で相手を食べないと使えないってきつくない?
けど、とりあえずスライムにはなれるらしい。めっちゃ弱そう。
これでスライムになって街中で『ぷるぷる。僕は悪いスライムじゃないよ』っていう遊びやったら楽しそうだな。
勇者でも釣れるかな? もしくはペットで女を釣る人のように、俺もスライムで釣るか。
いや絶対その前に悪ガキに踏みつぶされるな。ベッチャリと。
「ん?」
詳しくスキルの説明を見てみると、擬態の文面に気になる文言がある。
『擬態率を高めるほど対象の姿、体形のコピー率が上がる。
王級はステータス、本能、知能のコピーまで可能とする。』
「ステータスや知能までコピーする?」
これ、ひょっとして擬態率上げるとステータス下がることあるんじゃない?
擬態対象が強ければいいけれど、弱かったらそうなるよな?
それにコピー対象の知能が低かった場合は擬態した側の知能も低くなるのだから、犬に化けたら犬並みの知能になるってことになるんじゃないかこれ。
これであいつ死んだんじゃないか?
ステータスと知能がステータスのない犬並みに下がっていたらそら死ぬだろう。
ただの犬なら車でひかれて死ぬのは当然だ。
だがもしそうなら、また疑問が湧くな。
何故あいつがあんなところにいたのか、いつ犬を食べたのか、なぜあの犬になっていたのか。
…わからんことばかりだな。
ひとまずは擬態スキルの使用には気を付けよう。
となると、俺は今すぐこのスライムに擬態するわけにはいかなくなった。
スライム並みの知能になってもらっては困る。
説明文に『擬態率を高めるほど』と書かれているから、擬態率を高めなければおそらく大丈夫だろう。
だが擬態率をうっかり高めて死んだスライムカオスエクスペリエンスとかいう前例が、今朝俺の目の前にいたので試すのも慎重にならないと。
となると、最初の擬態対象は人間がいいな。
最低限の知能は大概の人はあるだろうし。
けど擬態する為に人間を摂取するわけにはいかない。スライム倒してもカニバリズムに目覚めてはいない。
ここは東京でもないし、俺はグールでもない。
食べるの髪の毛とかじゃダメかな?
明日職場に落ちてる髪の毛、拾ってみるか…。試すだけならタダだし。
同僚にばれない様にしないと。体の距離感と共に法的な距離感もガッポガッポになる。
ダンジョンの方はどうしよう。今すぐ行ってみる? ガッポガッポする?
ただ気になるのがステータスなんだよな。このくそ高ステータス、他人にばれたらどうなるんだろう。
確かダンジョン入るのってダイバー免許証が必要だったはず。自動車免許みたく一定期間ごとに更新も必要だ。
そのダイバー免許証の取得と更新時にステータスが国に取られるんだよな。
何の状況もわからないままステータスを見られたくない。
こんな高いステータスを見られたらどうなるかなんて予測できない。
日本にあるダンジョンはすべて管理されているから、知らないダンジョンにこっそり入ることもできないし…。
今あるダンジョンに内緒で入ろうにも、不正なダンジョンへの侵入は悪質な場合は結構罪が重かったよな…。
一度具体的にどういう手順なのか調べてみるか。
俺はスマホでダンジョン関係のことを調べ始める。
ん? なんだこれ?
俺はダンジョンのことを調べていると、何やら不審なニュースが流れていることに気づいた。
「最高位の10級ダンジョン上空に奇怪な円環が出現!」
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