勇者パーティーのバナナ係

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 俺はバナナ係。


 バナナ好きな勇者に雇われた人間だ。


 勇者はかなりのバナナ好きで、一日に一本は食べないと禁断症状が出てしまうらしい。


 だから俺は、円滑に魔王討伐の旅を進めてもらうため、勇者たちに同行している。





「はい、勇者さま。バナナの時間ですよ」


 俺はおやつの時間になったら毎日バナナを勇者の口に突っ込む。


 勇者はいつも無言でもぐもぐした後に、点数を述べた。


「90点」


 俺はその点数を元にして、さらに品質のいいバナナを提供できるように頑張るのだ。


 勇者パーティーのほかのメンバーは慣れたもので、「ああ、いつものバナナタイムね」という顔をしている。


 ツッコミはパーティ結成三日で消滅した。


 たまに何やってるんだと思うけど、これも世界平和のため。


 勇者にはおいしいバナナを食べてもらって、魔王討伐の旅を頑張ってもらわねば。





 俺は特別なスキルを持っている。


 それは、「個人農園」。


 特別な空間を作って、異空間で食料を生産できる。


 薬草とかも作れるため、最初はそれ目的で勇者パーティーにスカウトされたのだが、バナナ係が主になっている。


 勇者がバナナ好きだったためだ。


 なぜなのか勇者は語りたがらないが、いつもサル型モンスターに向ける剣先がぶれるので、それでだいたい察した。


 どんな過去があろうが、今は勇者。


 俺達のために戦ってくれているのだから、余計な詮索はしないほうがいい。






 そんなバナナ係な俺はたまに戦闘に参加する。


 滑りやすいバナナの皮を敵の足元に投げつけたり。


 お腹の減ったモンスターの前にバナナを投げつけて注意をそらしたり。


 未成熟な固いバナナを投げつけて、一ダメージ食らわせたり。


 逃走する必要がある時、勇者たちにバナナの皮を提供して、すべって逃げたりも……。


 バナナはいろいろと役に立つのだ。





 人から馬鹿にされたりもするけど、俺はこのバナナ係に対して誇りを持っている。


 どんなことでも極めれば勇者の力になる。


 という証明になるからだ。


 俺達のような存在は、普通は後ろの方で市民の生活を支えるので手いっぱいだ。


 世界を救う勇者の力になんてなれっこないと、皆を思っていた。


 だから世界が荒れた時は、力ある者たち……傭兵や冒険者から馬鹿にされたりする。


 でも、俺のような存在が勇者のパーティにいることで、それを減らすことができるんだ。


 だから誰に何を言われても、最後までこのパーティーのバナナ係でいるつもりだ。


 勇者様もきっとそれが分かっていて、俺に声をかけたのかもしれない。






「もぐもぐもぐ」

「勇者様、物欲しそうな顔で二本めに手を伸ばさないでください。バナナは一日一本です」

「……(しゅん)」

「悲しそうな顔をしてもだめです。高品質なのはあんまり作れないんですから」


 分かっていて……?

 うーん、気のせいかもしれないな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者パーティーのバナナ係 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ