第156話 素顔のままで

 ———私達四人はローブを脱いだ。今日は制服じゃなく、いつものガーリー仕立ての衣装に身を包んでいた。キャスケットは勿論被ってない。空君はテンガロンハットを被るけど、ツバで顔は隠さない。大地君もサングラスをかけた。大地君の場合、サングラスかけた方が存在感出るからね。そして陽葵はキャスケットじゃなくてベレー帽を被る。可愛い。私もベレー帽被れば良かった。


 そして全員無表情で身動きせずに静かに立つ。そして、


「皆さんお集まり頂き有難うございます」


 空君がマイクを取って話し始めた。


「この場に立つのも三年目となりました。これで全部最後です。話したい事は沢山ありますが、皆さん俺の話じゃなく、俺らの演奏を聴き集まったって事で、それでは二曲目!」


 私は両手でマイクを持ち、頭上に向かって曲のタイトルを叫んだ。


「『アイ ネバー ダI never DEI———aaaaaaaaahhhhhhhhhh———Ahhhhhhhhhhhhhh——————i♪』」


 そしてそのままホイッスルボイスへ!

 観客は私のこの普段とあまり変わらない姿から発する声量とキーの高さに、驚きの表情を見せるが、観客の何人かが発した歓声に引っ張られ歓声を上げ始めた。


「———ぉぉぉおおおおおおおおお———!」


 ・

 ・

 ・


 ———ライブは最高潮! そして、六曲目が終了した。ステージでは今迄で最長だ。練習では二時間以上の演奏は普通だから体力的には全然問題ない。問題なのは皆の演奏だ。二曲目以降、暴走しまくってる。しかも限界を超えた先で暴れてるからいつも以上に手に負えない。


「では、最後になりました。最後はコイツらと一緒に演奏します。Lallapalooza!」


 空君の一言にステージに上がるLallapalooza。

 紗凪ちゃんと実莉亜ちゃんは今日もサブカル気味なガーリー? ガーリー気味なサブカル? そんな装いで登場だ。会場からは「可愛い」の声が聞こえてきた。そして私と実莉亜ちゃんが並んで立つと会場は今日も響めく。

 因みに、燈李君は陽葵と連弾。晴乎君はタンバリンを持って登場だ。流石にドラム2セットは準備できなかった。晴乎君はドラムの近くでは無く私の隣に立っている。並びを見るとちょっと奇妙な絵面になってると思う。

 

 そして始まる最後の曲。


「軽音部全員で送る最後の曲、ハイスペックスの今のメンバーでのデビュー曲です。ではお聴きください。『大きな栗の木の下は!』」


 ドラムスティックのリズムから始まるこの曲。正吾君がリードギター、紗凪ちゃんがサイドギターを弾く。ベースもツインで、隆臣君が指引き、空君がスラップだ。そして燈李君と陽葵の連弾は楽しそうに弾いている。


 歌い始まると、私の声と実莉亜ちゃんの声が、お互いに引き立てて、何とも言えない「歌」になる。


「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 湧き上がる観客。練習でも思ったけど、本番は全然違う。凄い! 自分の声が気持ち良く聴こえる。自分の声じゃないみたいだ。実莉亜ちゃんも驚いた顔で歌い続ける。


 そして、サビに入ると、私達の声が跳ね上がった! 自分でもビックリだ! そして……そして私の隣では、なんと! 晴乎君が絶賛大暴走中だ!


 晴乎君はタンバリンを叩く叩く叩く叩く! 早い早い早い早い! 頭!肘!手首!膝!足首!肩!ケツ!全身くまなく使って叩きまくる! そして首が取れるんじゃないかって程、頭を振る! こんな動き、練習じゃ見せ無かったよ! 余りの動きに笑いそうに……って、実莉亜ちゃん、笑って歌えなくなっちゃった! 腹抱えて笑ってるよ! こんな彼女初めて見た。


「わあああああああぁぁぁぁぁぁ!」

「スゲー! 水樹すげーよ! バカだ! アイツバカだ! あんなに面白い奴だったのか! 最高だぁ!」


 晴乎君のタンバリン捌きに会場が沸きに沸く!


 そしてベースも気付くと変な事をやっていた。

 空君が隆臣君の隣に立ち、隆臣君のベースの弦を右手で叩いている。それに合わせて隆臣君は左手で演奏する。一本のベースを二人で弾く。ベースの連弾だ! しかも高速だ。早い! 隆臣君は空君が叩くのに合わせて左手の指をその音階に置いて行く。いや、これ合わせてない。多分、勢いで音が合っちゃってるんだ。勝手に指が合ってるだけだ。だってLallapaloozaって合わせられない奴らだからね。


 一方ギターは紗凪ちゃんと正吾君がラブラブな感じで背中を付けて、左右に体を揺すって弾いている。紗凪ちゃん左利きだから動きが鏡合わせに一緒なんだよね。相手が紗凪ちゃんだからか、くっ付いててもヤキモチ妬かないのは不思議だ。


 そして始まる陽葵の暴走! アレンジ入りまくって燈李君はお手上げだ。キーボードから離れて陽葵の演奏を眺めてる。


 それに煽られて正吾君も参戦だ。紗凪ちゃん完全に置いてけぼりで、コードすら抑えられなくなっちゃった。


 そして意外にも波奈々が入ってきた。彼女、目が陽葵化してる。目が三角だ。彼女もあっち側に行けるようになったみたいだ。


 そしてドラムとベースも一緒に暴れまくる。Lallapaloozaで唯一ついて来れたのがタンバリン晴乎だ! メチャクチャだ! 体の何処を叩いているか分からない程早い! と、感心してたら力尽きて倒れてしまった。


「わああああああああぁぁぁぁぁ!」


 晴乎のパフォーマンスに湧き上がる観客。暴れるハイスペックス!


 もう、収拾がつかなくなって———


“———ブォン!”


 アンプの電源を落とされた。時間が来たようだ。

 締まりのない、なんとも歯切れの悪い最後のステージ。ある意味ハイスペックスだ。

 数年後、笑い話で盛り上がるだろうね。


 この後、周りからは根掘り葉掘り色々聞かれたけど、関心は最初だけで、その後、高校卒業まで普通に時間が過ぎていった。


 こうしてハイスペックスの……葉倉丹菜の「全然バンドとか興味無いのに正体隠して生活してる隣の部屋のギタリストとカラオケ行ったらバンドのボーカルに誘われて私まで正体隠すようになった」話は正体もバラしたんでお終いだ。



 次回最終回。

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